研究課題
本年度は、高移動度有機半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)のESR観測をさらにすすめ、特にイオン液体ゲートトランジスタ構造を用いて、高分子材料への高効率キャリア注入下でのESR観測に成功し、以下の結果を得た。1.結晶性の高い高移動度高分子材料PBTTTのイオン液体TFTのESRでは、ドーピングに伴う電子状態の顕著な変化が明らかとなった。ESRによるスピン濃度と、素子の充電電流による電荷濃度との比較(スピン・電荷関係)から、キャリア濃度を増すと、スピンと電荷を共に持つポーラロンから、スピンを持たないバイポーラロンへ変化することが示され、光吸収スペクトルの変化からも裏付けられた。さらにキャリア濃度を増すとESR線幅が顕著に増加し角度依存性や温度依存性が伝導電子のスピン緩和(エリオット機構)を示すとともに、スピン磁化率の温度依存性からは金属相に特有なパウリ磁化率が観測され、高濃度のキャリア注入によるPBTTTの金属化が明瞭に示された。同様な金属転移は、化学ドーピング法でもすでに報告しているが、最近、F4-TCNQをアクセプタとした高ドープPBTTTについても、ケンブリッジ大との共同研究で明らかにしている。2. 電界発光性高分子として注目されるF8T2のイオン液体TFTを作製し、正・負キャリアの高効率注入とESR観測を行った。その結果固体ゲート絶縁膜では見られなかった負キャリアのESR信号が明瞭に観測された。負キャリアの信号は正キャリアに比べて顕著なgシフトを示し、負キャリアの波動関数がF8T2の硫黄原子上に大きなスピン密度を持つためであることが、g値やキャリア波動関数のDFT計算から明らかになった。これまでの研究から、高移動度材料のキャリアダイナミクスや、キャリア注入による電子状態制御の可能性がミクロに示され、高移動度分子材料の今後の発展への展望が得られた。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nature Mater.
巻: in press ページ: in press
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