研究課題
基盤研究(B)
最近私たちは、結晶中の自由電子の非弾性散乱過程に光電子回折とは逆の吸収過程があり、エネルギー損失電子の角度分布に、励起源の偏光や種類(光・電子)に関わらず、光電子回折模様とは真逆のネガコントラスト模様が観察されることを発見した。この「逆光電子回折」による新規原子配列解析法の開発が目標である。1. 既報(J.Phys.Soc.Jpn.81(2012)013601)のGe(111)について発見した現象は、Siや金属のCuでも確認。こうした定量的な知見は通常の光電子回折やAuger電子回折に与える影響を正確に除去するのに役立っている。現在CuのAuger電子回折の円二色性について定量的な解析を進めているが、Ge(111)の「逆光電子回折」とその「円二色性」の信号の減衰から、実際にCuのAuger電子回折に円二色性が現れるのを実証することができた。2. 当現象に興味を持つA. Winkelmann博士(独Max Planck研究所)に理論面からのサポート得た。波数空間上での結晶格子と多数の平面波との相互作用を積算するアプローチでGe(111)のネガコントラスト模様のシミュレーションを行っていただいた。成果はJ.Ele. Spectrosc. Relat. Phenom.誌の特集号に掲載される予定。3. スイス放射光施設にて3週間のビームタイムを獲得し、光電子回折の高エネルギー分解能測定による研究が大幅に進展した。4. 研究拠点の一つであるSPring-8 BL25SUのブランチ化を含む大幅な改造工事に伴い、2次元光電子分光実験ステーションの移設とメンテナンスを進めている。5. 2013年5月より、新規に研究室を立ち上げた。新規表示型電子分析器のデザインと製作を進めている。真空排気系と試料搬送系の整備を終えた。収束電子銃の導入も済んだ。現在、分析器各要素の組み立ては進行中。
2: おおむね順調に進展している
1. 当初、予定していなかった独立した研究室への異動・昇格があった。そのため、新たに実験室の整備や真空排気系の構築などを行った。2. 分析器の立ち上げに試行錯誤がありやや遅れているが、当初H26年度に予定していた収束電子銃の導入を前倒しして試料表面上の電子線の走査のテストなどを実現できるようにした。3. SPring-8での移設作業が順調に進行している。4. 建設協力を行ってきたスイス放射光施設の光電子回折ビームラインが順調に立ち上がり、初期建設グループの専用利用が前倒して実施できた。
研究室のメンバー(研究代表者と配属の学生2名)に新たに博士研究員としてこれまで共同研究を進めてきた方が加わった。また新規に学生3名配属される予定である。この新体制で次の3課題に取り組む。1. 小型分析器の完成・実用化に注力する。電子銃および分析器の電位制御、試料処理・搬送系の準備と測定・解析系で担当を分担し、開発のスピードを上げる。2. SPring-8 BL25SU2次元光電子分光装置の再立ち上げを行う。SPring-8軟X線チームの多大な支援を受け推進中。3. スイス放射光施設での高分解能光電子回折実験60 eVから1 keVまでの広い光エネルギー域の実験ができることがわかった。Auやグラフェンを数原子層を表面に蒸着し、バルク敏感性の検証実験を行う。4. NiやCu表面上のグラフェン単層膜など試料を提供いただける方との共同研究が着実に進んでいる。評価実験に適した試料を共同で開発する。
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