研究課題/領域番号 |
25287075
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
松井 文彦 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (60324977)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 表面・界面構造 / 表面・界面物性 / 光電子回折 / Auger電子 / 二次電子 / 非弾性散乱 |
研究実績の概要 |
最近私たちは、結晶中の自由電子の非弾性散乱過程に光電子回折とは逆の吸収過程があり、エネルギー損失電子の角度分布に、励起源の偏光や種類(光・電子)に関わらず、光電子回折模様とは真逆のネガコントラスト模様が観察されることを発見した。この「逆光電子回折」による新規原子配列解析法の開発と応用展開が当課題の目標である。 1 2H積層構造を前提に多くの電子状態計算の研究がされているMoS2やMoSe2が光電子回折の測定から明瞭に3R積層構造を持つことが示された。反転対称性が破れる系で、前者は六回対称、後者は三回対称の光電子回折模様が得られる。エネルギー損失電子角度分布の時間反転によるネガコントラスト生成機構を解明する際、空間反転があるかどうか決定するために利用することができる。系統的な測定の結果、ネガコントラスト生成機構では空間反転はないことを見出した。これは吸収過程によって本来の光電子波動関数が消滅し、その分がネガコントラストとなることを示唆する。 2 SiC/絶縁体界面の欠陥準位を解消するのに有効なN原子の局所構造について調べてきた。N原子は界面原子層の一部のC原子を置換しており、バルク・表面原子の数に比してわずかな量である。その光電子角度分布を解析する際、エネルギー損失電子による定量的なバックグラウンド処理が重要であることが示せた。 3 新しい2次元表示型分析器として開発してきたProjection-type electron specrometer with collimator analyzer (PESCATORA)の特許出願を行った。 4 付随して発見したAuger電子回折の円二色性の発現機構についてまとめた論文がZ. Physik. Chem.誌に受理された。2016年度初頭に出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 SPring-8にて様々な試料について光電子回折測定を進めた。解析にてエネルギー損失電子角度分布の知見が役立っている。 2 新分析器のコリメータを改良し、アスペクト比(1:10)を保ちながら1 mmの厚さのものの作製に成功した。角度・エネルギー分解能向上と検出ムラ軽減が見込める。 3 建設協力を行ってきたスイス放射光施設の光電子回折ビームラインのユーザーとしての利用も三年目に入り、二度のビームタイム配分を受けた。Fe3O4やTiO2のAuger電子回折の円二色性とエネルギー損失電子回折のデータを系統的に取得した。Fe3O4のビームタイム申請では提案中最上位の評価を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
国際共同研究強化の支援を受け、当課題の成果を基にした海外展開を進める。研究室のメンバー(研究代表者と配属学生3名、うち博士後期課程1名、二期生3名は無事卒業)に新規に学生2名配属される予定である。この新規体制で次の3課題に取り込む。 1 新規小型分析器の高度化に取り組む。SPring-8およびスイス放射光施設にて実践的研究を進める。 2 SPring-8 BL25SU2次元光電子分光装置での実験:長期利用課題が採択された。共同実験者から試料を受け、光電子回折の実験を進める。 3 これまで測定・解析してきたデータが論文化されている。引き続き論文化に注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度は2回計上していた放射光施設(SPring-8)利用費を共同研究者に負担していただいた。SPring-8への旅費に充てることができ、また基金助成金132,870円の次年度使用予算が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
学会参加費として国内では5万円(1回)、海外では30万円(1回)を計上しているが、国内での複数回の学会参加費・旅費と論文掲載費の追加に上記予算を充てる。
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