研究課題/領域番号 |
25287077
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中川 剛志 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (80353431)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 磁性 / ナノ材料 / 表面・界面物性 / スピンエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本年度は主に構造異方性の高いW(112)表面を用いて、その上のFeのナノ構造作製、および磁気測定を行った。また測定手法としてスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)および低温磁気光学カー効果測定器の開発を行った。 W(112)上のFeナノ構造:異方性のある構造として知られるBCC(112)であるが、今回はW(112)上にFeのナノ構造を作製し、その構造と磁性を測定した。Fe/W(112)はFe1層以下では一次元的な1x1構造を取ることが低速電子回折、走査トンネル顕微鏡により明らかになった。X線磁気円二色性によりこの1x1Fe構造の磁性を測定した。その結果、磁気異方性エネルギーはFe1原子当たり0.6 meVとなり、bccFeの磁気異方性エネルギーが0.001meV程度であることと比較すると100倍以上の値となり、非常に高い磁気異方性を示すことを明らかにした。また保磁力は約3Tであり、こちらも高い値をしめした。しかし、異方性エネルギーから見積もられる最大保磁力が11Tであるので、磁気反転機構が磁壁生成によるもので、期待していた一斉回転ではならなかった。一斉回転機構となるようにするには磁壁生成が不利になるようなナノ構造の形状が求められるので、今後は磁壁方向をSP-STMで明らかにし、またナノ構造を制御することも行う。 スピン偏極走査トンネル顕微鏡および低温磁気光学カー効果測定器の開発:SP-STMの立ち上げを行った。この測定法は欧州の先端研究機関で行われている手法であるが、今回磁壁の直接観測をするために我々のグループでも導入した。低温磁気光学カー効果測定器(LT-MOKE)の開発も同時に行っている。現在、10K程度に冷却可能なシステムを構築中であり、来年度初頭には測定開始予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
STMによる磁区観察ができるようになったことが進歩と考えている。またXMCDによる実験はFeナノ構造について順調に進んでおり問題はない。当初予定の結晶方位を規定したナノワイヤーの作製は現在進行中であるが、いまだワイヤー太さの均一度に問題があり、作製条件を更に検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
巨大な保磁力をさらに大きくするには磁気異方性を高めるか磁壁生成を抑制する方法がある。磁気異方性は既に十分に大きく、また電子構造に依存するので制御が難しい。一方、磁壁生成はナノ構造に依存するので、制御しやすい。そこで磁壁生成を抑制することで保磁力を高める。磁壁方向とワイヤの長軸方向を揃えるとさらに保磁力は増大する。磁壁のエネルギーは磁気異方性により決まっているので、エネルギー損失をなるべく低くするために、特定の結晶方位に沿って形成される。そこでワイヤの長軸方向と磁壁方向を一致させるようにナノ構造を形成することが保磁力を高めるために重要であると考えている。Fe/W(110)の場合には磁壁が[1-10J方向にできやすいので、ワイヤ長軸は[110]方向ではなく[001]方向に向けることが重要である。すでにワイヤ長軸が[001]方向になる試料の製作を進めている。現在、STMによる研究ではワイヤ長軸が[001]になる条件が表面に析出もしくは吸着した炭素不純物の存在であることがわかりつつある。この炭素析出物量を制御し1 鉄原子の表面拡散に異方性を持たせ、望みの方位に揃ったナノワイヤを創ることを目指す。また年度後半には放射光による磁気円二色性測定を行い、保磁力を決定する。
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