より小さく、より薄い磁石は高密記録素子として重要である。その際、磁石がより少数個の原子集団で安定であるためには、熱に対する磁化反転するエネルギー障壁が高い必要である。このエネルギー障壁は磁化容易軸と困難軸間の差であり、磁気異方性エネルギーと呼ばれる。通常、磁気異方性エネルギーを高めるためには、軌道磁気モーメントに大きな異方性がある希土類元素が用いられる。その一つとして、市販の最強磁石として有名なネオジム磁石があり、磁気異方性エネルギーは一原子あたり0.5 meVである。しかし、希少金属を使用するという問題点がある。一方、地球上に豊富にある鉄は磁力の点では申し分ないのであるが、磁気異方性エネルギーが小さく、磁化反転しやすい。鉄単体の異方性エネルギーは5 μeV程度しかない。しかし、鉄の結晶構造に異方性を持たせることで、磁気異方性エネルギーを大きくすることができる。 磁性薄膜は大きな磁気異方性を持つことが多い。その理由は表面・薄膜が低次元物質であり、その電子系の歪みにより異方性が発現するからである。磁気異方性の高い物質は産業に重要であり、かつ基礎科学的に興味深い研究対象である。一方、磁性薄膜が極端に薄くなると基板との合金化が問題となる。基板との合金化や強すぎる電子混成は磁性原子の磁気モーメントを減少させ、磁気異方性を損なうことがある。実際、W基板上のCoは単層では強磁性にならないことが知られている。本研究では、より高い磁気異方性と磁気モーメントの探索として、W(Mo)基板上の単原子層のFeおよびコバルトの磁性の研究を行った。その結果、Fe/W(112)において磁気異方性エネルギー0.6meV/atom、保磁力3.5T、Co/W(112)において磁気異方性エネルギー0.5meV/atom、保磁力3.0Tと高い値を得ることができた。またこれらの結晶構造についても詳細に決定した
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