研究課題/領域番号 |
25287078
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
雨宮 健太 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (80313196)
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研究分担者 |
酒巻 真粧子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (90598880)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 強磁性体 / 強誘電体 / 深さ分解分析 / 界面 / 磁性薄膜 |
研究概要 |
今年度の実績は、主に以下の3点からなる。 (1)測定手法の高度化:これまで我々が磁性研究に用いてきた手法は、主にX線吸収に伴って放出される電子を検出するものであるが、本研究で対象とする試料は比較的深い位置の情報を得ることが必要であり、また、印加した電圧が放出された電子に影響を及ぼす恐れがある。そこで電子に比べて脱出深度が深く、電場の影響を受けない、蛍光X線を取り込むように検出器を含めた改良を行った。また、特に磁化曲線の測定において、電圧印加によって偽のシグナルが混ざることを防ぐために、円偏光のスイッチングを活用し、短時間で精度よく磁化曲線を測定できる手法を確立した。 (2)薄膜作製およびin-situ電圧印加深さ分解測定システムの構築:我々が従来用いてきたシステムは,同じ真空チェンバー内で基板の清浄化,薄膜試料の作製,および深さ分解X線磁気円二色性の測定が連続して行えるユニークなものであるが、これにさらに改良を加え、真空を保ったままで試料作製から電圧印加,および測定までを一貫して行えるシステムを構築した。また、また,BaTiO3を始めとする酸化物薄膜の作製のために,従来我々が用いてきた電子衝撃加熱法に加えて,スパッタリング蒸着法を導入した。 (3)強誘電体基板への電圧印加によるFeおよびFeCo薄膜の磁性変化の観察:改良したシステムを用いて、まずは最も基本的な強磁性体であるFe薄膜について磁化曲線およびX線磁気円二色性の測定を行い、電圧による変化を観察することに成功した。さらに、FeCo薄膜においても同様の測定を行い、おそらく磁気異方性の変化に起因する、より大きな磁化曲線の変化を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(1)深さ分解X線吸収法をはじめとする測定手法を高度化し、(2)それを用いて強誘電体/強雨磁性体界面における磁気的相互作用を解明するとともに、(3)得られた情報を用いて薄膜を設計し、電圧印加によって磁性を制御すること、を目的としている。25年度はこのうち(1)を行うとともに、(2)についての初期データを得ることを予定していた。以下、それぞれに対する達成度を示す。 (1)測定手法の高度化:専用の試料ホルダーの製作、およびマイクロチャンネルプレート検出器の導入により、電子のみならず蛍光X線を用いた測定も可能になり、電圧印加状態でのX線吸収分光スペクトル測定を可能にしたという意味で、おおむね順調である。残された課題は蛍光X線検出による深さ分解X線吸収分光法の確立である。 (2)強誘電体/強雨磁性体界面における磁気的相互作用の解明:最も基本的な強磁性体であるFe薄膜に対して実験を行い、電圧印加に伴うX線磁気円二色性スペクトルの変化を見出すなど、界面における相互作用の理解へ向けて進展があった。蛍光X線検出による深さ分解X線吸収分光法を用いることで、より界面に特化した情報を得ることが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、界面の磁性を感度よく検出するための深さ分解XAFS法の高度化を進める。特に本研究では埋もれた界面を対象とするため、従来のAuger電子を取り込む方法だけでは検出深度が浅すぎるという問題があり、脱出深度が電子の10倍以上ある蛍光X線を角度分解して取り込む方法も併用する。 このように高度化した深さ分解XAFS法を用いて、電圧印加に伴う界面における電子状態、結晶構造の変化と、それらの磁性への影響の解明を行う。特に、これまで行ってきたFe/BaTiO3という極めて基本的な試料から、電圧印加に伴って磁気異方性に大きな変化が期待できるFeCo/BaTiO3へと発展させる。 さらに、深さ分解XAFS法で得られた情報をもとに、どのような薄膜を作製すればより効率的な磁性の制御ができるかを検討する。特に、複数の磁性薄膜の間に非磁性層を挟んだ多層構造に着目し、非磁性層を介した磁気的相互作用と、基板の分極による磁気異方性の変化を組み合わせることによって、薄膜全体の磁気的な性質の制御を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は試料ホルダーや検出器などの測定環境の整備とイオンソースなどの試料作製部分の充実を行ったが、試料ホルダーの一部を自作するなどの節約効果により、次年度使用額が生じた。 主に、試料作製環境をより充実させるためのエバポレータおよびその導入に必要な真空部品の購入に使用する。また、多くの実験ができる環境が整ったので、誘電体基板の購入や成果報告にも使用する予定である。
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