研究課題
本研究課題の主テーマの一つであるf電子系の研究に関しては、昨年度に引き続き、非磁性結晶場基底状態を持つPrTi2Al20に対して、Al核の核磁気共鳴(NMR)実験を行った。昨年度は、相転移を示す2K以下の低温においてNMR共鳴線が分裂する様子から、z二乗型の強四極子秩序が発生することを明らかにしたが、本年度はさらに、NMRスペクトルの温度・磁場依存性を詳細に測定することにより、四極子秩序に伴い、4f電子の電荷密度分布やスピン密度分布の微視的な変化が、Al原子核と4f電子の間の超微細相互作用を変化させていることの証拠を得た。このような効果が実験で観測される可能性は、これまで考えられておらず、今後のf電子系の研究において重要な実験手法となる可能性がある。本課題のもう一つのテーマであるフラストレートしたスピン系について、以下のような進展があった。① 擬2次元正方格子上で最近接相互作用と次近接相互作用がフラストレートした化合物RbMoOPO4Clにおいて、PサイトのNMR測定を行い、低温でストライプ型の反強磁性秩序が発生することを明らかにした。一方、スピン・フロップ状態にある2テスラ以上の磁場下における、NMRスペクトルの角度依存性は単純なストライプ型反強磁性構造では説明がつかず、今後の課題となっている。②量子スピンアイス系の候補として最近注目されているパイロクロア酸化物Pr2Zr2O7に対して、ZrサイトのNMR測定を行った。Zrサイトの核磁気緩和率は磁場の方向や大きさに依存して、異方的な振る舞いを示す。特に磁場を[100]方向に印可した場合には、磁気励起にエネルギーギャップが生じ、ギャップが磁場に比例して増大するというスピンアイス系に特徴的な振る舞いが観測された。
2: おおむね順調に進展している
非磁性結晶場基底状態を持つPrTi2Al20の研究に関しては、NMR測定から得られるAlサイトの内部磁場から、f電子系の四極子秩序に伴う電荷・スピン密度の微小な変化が決定できる可能性が発見され、予想外の展開を見せている。一方ではそのため、1K以下の極低温や高圧における測定は計画より遅れている。フラストレートしたスピン系に関しては、当初の計画になかった量子スピンアイス系Pr2Zr2O7の研究が進展している。
昨年度と同様、「f電子系における多極子の秩序と揺らぎ」と「フラストレートしたスピン系における新規な量子状態」という二つのテーマに沿って研究を展開する。前者についてはPrTi2Al20のスピン密度の微視的な観測手法を確立し、多極子の揺らぎの定量的評価を試みる。後者に関しては極低温における量子スピンアイス系のダイナミクス、特にメタ磁性転移における臨界揺らぎの観測を試みる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
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http://masashi.issp.u-tokyo.ac.jp/