研究課題/領域番号 |
25287083
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧川 仁 東京大学, 物性研究所, 教授 (10179575)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴 / 量子相転移 / 極限条件 / 重い電子系 / 量子スピン系 |
研究実績の概要 |
非磁性結晶場基底状態を持つカゴ状化合物PrTi2Al20におけるf電子系の多極子秩序状態に関する前年度までの研究を継続して、Al核の核磁気共鳴(NMR)測定及び磁化測定を行った。これまで、相転移を示す2K以下の低温においてNMR共鳴線の分裂から、z二乗型の強四極子秩序が発生することを明らかにしたが、本年度はさらに、[001]方向の磁場印可によって新たな相転移が誘起されることを見出した。この相転移は2テスラ付近におけるメタ磁性的な磁化率のピーク、およびAlサイトにおける内部磁場の不連続な飛びによって特徴づけられる。この相転移の起源として、秩序変数の対称性の変化、あるいは伝導電子とf電子の混成の変化、などの可能性が考えられる。 本課題のもう一つのテーマであるフラストレートしたスピン系については、以下のような進展があった。① ブリージング・パイロクロア格子を持つクロム・スピネル酸化物LiGaCr4O8は、構造転移を伴う1次の反強磁性転移を示すが、本研究ではGaサイトの5%をInで置換した系について、NMRおよび比熱の測定によって2次相転移を検出した。さらに中性子散乱の測定を行ったところ、予想に反して反強磁性のブラッグ反射は観測されず、新規なスピンネマティック状態を示唆する短距離相関が見出された。スピンネマティック状態は、不規則性を含むパイロクロア・スピン系に対して理論的に提唱されているが、実験的にはまだ観測されていない。②量子スピンアイス系の候補として注目されているパイロクロア酸化物Pr2Zr2O7に対して、ZrサイトのNMR測定を行った。さまざまな磁場の大きさや方向に対してZrサイトの核磁気緩和率の測定を行い、その結果は、広い磁場・温度範囲において、孤立した四面体上のスピン系のエネルギー準位を考慮した比較的単純なモデルで理解できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非磁性結晶場基底状態を持つPrTi2Al20の研究に関しては、NMR測定および磁化測定によって[001]方向の磁場下で予想外の相転移が発見され、その起源を解明することが新たな課題となった。一方ではそのため、1K以下の極低温や高圧における測定は計画より遅れている。また計画調書に記した重い電子系化合物YbAlB4に対して、高圧下のNMR測定を行い、反強磁性秩序の発生を初めて微視的に検証した。フラストレートしたスピン系に関しては、ブリージング・パイロクロア酸化物Li(In,Ga)Cr4O8、量子スピンアイス系Pr2Zr2O7、正方格子フラストレートスピン系RbMoPO4Cl、擬1次元フラストレートスピン系NaCuMoO4(OH)の研究が進展している。これらはいずれも当初の計画には含まれていなかったテーマで、最近なって初めて合成された、あるいは注目されるようになった物質である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、「f電子系における多極子の秩序と揺らぎ」と「フラストレートしたスピン系における新規な量子状態」という二つのテーマに沿って研究を展開する。前者についてはPrTi2Al20における新たな磁場誘起相転移の機縁を解明し、YbAlB4の高圧下磁気秩序と合わせて、論文発表による成果の取りまとめを行う。後者に関しては極低温における量子スピンアイス系のダイナミクス、特にメタ磁性転移における臨界揺らぎの観測を試みるとともに、他の物質系における研究成果の取りまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の研究において、非磁性結晶場基底状態を持つカゴ状化合物PrTi2Al20に対して新しい相転移が発見されるなど、予想外の研究展開があったため、次年度も引き続き研究を継続し、成果の取りまとめを行う必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の経費は、極低温における核磁気共鳴実験を行うための寒剤費(液体ヘリウム)に使用する予定である。
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