研究課題/領域番号 |
25287084
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大熊 哲 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (50194105)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 渦糸 / 非平衡ダイナミクス / 量子相転移 / 動的相転移 / 多バンド超伝導 |
研究概要 |
平成25年度には、極低温におけるモードロック共鳴法とパルス法を基礎とした輸送現象測定系の構築、及び円錐形状を含むアモルファス膜試料の作製を完了した。これらの測定手法と試料を用い、まず、(1)速度増大による渦糸格子方位の回転、及び高速域における格子フローの不安定化の観測に成功した。これらの現象は共に速度増大によって起こる動的相転移で、渦糸芯に存在する準粒子の有限な緩和時間(準粒子寿命)が重要な役割を果たしている。特に格子の不安定化の起こる特徴的電圧値は、低磁場と高磁場域ではその磁場依存性が大きく異なること、そして不安定化の機構は低磁場では単一渦糸フローのダイナミクスによって、高磁場では格子のフロー方向の隣接渦糸のダイナミクスによって説明できることを明らかにした。これらの実験結果から直ちに準粒子寿命が求まり、その値は理論値、及び過去にトンネル実験から間接的に求められた類似の物質の値と近かった。本研究は、超伝導にとって重要な準粒子寿命を輸送現象測定によって比較的簡便に求める方法を提案したこと、及び応用上も重要な、渦糸フローの不安定化が起こる条件を明確に示したという意義をもつ。 つぎに、(2)円錐表面上を頂点の周りに回転運動する渦糸系のモードロック共鳴、すなわち渦糸格子の観測に成功した。これは3次元構造曲面上を運動する渦糸格子の初の観測例である。今後は円錐曲面によって初めて導入された渦糸格子の異方性と隣接格子間の界面摩擦が、格子フローのダイナミクスに及ぼす影響を明らかにする。 以上の成果を踏まえ、26年度はこれまでより低速域における渦糸ダイナミクスも研究対象とする。これにより、可逆-不可逆転移やディピニング転移といった非平衡相転移の臨界現象の解明と、さらにこれらの研究成果に立脚した、乱れた2次元超伝導体の量子渦糸液体相・磁場誘起量子相転移の探求を目指した研究も遂行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3年間の研究期間の1年目にあたる平成25年度には、研究全体を遂行するにあたって重要な測定法となる、極低温下での高周波モードロック共鳴法とパルス法を用いた輸送現象測定系の構築、及び円錐形状を含むアモルファスMoxGe1-x膜試料の作製を予定通り完了した。そして25年度にはすでに、これらの特徴的測定手法と良質な試料を用い、当初の研究目的に掲げた「渦糸系を舞台にした新しい非平衡ダイナミクス・動的相転移の探索」のうち、「速度増大による渦糸格子方位の回転と不安定化の観測」、及びこれらの巨視的動的相転移現象に及ぼす準粒子の役割に関する知見を得ることに成功した。これらの成果は平成26年3月開催の日本物理学会における招待講演(シンポジウム)及び2件の国際会議招待講演にて発表された。さらに、まだ予備的実験の段階ではあるが、作製した円錐試料を用いて、3次元構造表面(曲面)上での渦糸格子フローの初の観測にも成功した。一方、26年度からの本格的研究を予定している非平衡ディピニング転移の臨界現象についても、すでに静的渦糸状態(磁束密度)が臨界現象に及ぼす影響について、臨界指数の普遍性と臨界領域の違いを明らかにした。これらの成果は1編の論文(さらに2編が掲載決定)として出版された他、18件の口頭発表により公表された。これらの成果は、当初の計画を上回る研究の進展を意味している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は 25年度に着手した前記の研究をさらに深化させると共に、研究目的に掲げた残りのテーマである、周期駆動された多粒子系(渦糸系)における可逆-不可逆フロー転移と非平衡ディピニング転移の臨界現象の解明、特に微視的構造との関係に関する研究を推進する。これらの研究で確立される非平衡測定に基づく渦糸状態の検出手法と、25年度に構築したパルス・モードロック法を有効に併用することにより、強い量子ゆらぎをもつ乱れた2次元超伝導体の絶対零度における電子状態と渦糸状態の解明を行う。すなわち、これまでできなかった絶対零度近傍における2次元渦糸相存在の検証を、これらの動的輸送測定によって明確に行うことを目指す。 なお、当初の研究目的に掲げたテーマのひとつである、多バンド超伝導体の新奇渦糸ダイナミクスの研究は最終年度に回す。その理由は、多バンド超伝導体であるMgB2の良質な薄膜試料の作製には、今しばらく時間を要することが見込まれるためである。このテーマは26年度に予定している研究が完了したのちに着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、実験の都合から安定した高磁場を発生させるための超伝導マグネット用電源が緊急に必要となり、その購入を優先した。一方、人件費の支出を予定していたデータ解析等の作業が予想以上に少なくてすみ、また旅費の支出も当初予定より少額となった。このため、節約できたこれらの経費を次年度(26年度)に繰り越し、当初購入を予定していた物品の購入の一部にあてることとした。 繰り越した「次年度(26年度)使用額」は、25年度に購入を予定していた、希釈冷凍機の安定運転用のシールドロータリーポンプや試料の輸送現象測定用の精密直流・交流電流源の購入費用の一部にあてる。これらの物品購入により、26年度に本格的実験に着手する、希釈冷凍機を用いた絶対零度近傍の安定かつ精密な輸送現象測定が可能となる。
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