研究課題/領域番号 |
25287086
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
壬生 攻 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40222327)
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研究分担者 |
三井 隆也 独立行政法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究主幹 (20354988)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 磁性 / 薄膜 / 積層膜 / 界面 / メスバウアー分光 / 核共鳴散乱 / 放射光 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
ここ数年の間に急速に発展中の放射光核共鳴散乱法(放射光メスバウアー分光法)と大学実験室レベルで実施可能な密封放射線源を用いたメスバウアー分光法を併用した,磁性積層膜の埋もれた界面の物性や機能に関する研究課題について,第 2 年度目の研究を推進した。 いくつかの研究ターゲットのうち,伝導電子が 100% スピン分極した「ハーフメタル」の候補物質である L2_1_ 型ホイスラー合金の積層膜に関しては,界面磁化の特異な減少や大きな温度依存性は見られず,ホイスラー合金を金属強磁性層として用いた磁気トンネル接合における低温から室温にかけての磁気抵抗効果の大きな減少は,界面磁化の減少を直接反映したものではないことが明らかになりつつある。特に,立方晶の (111) 方向に配向した Co_2_FeGe ホイスラー合金の積層膜に関しては,その成果が国際学術誌に投稿され,査読ののち採択・公表された。現在引き続き,他のホイスラー合金系積層膜や異なる結晶配向の積層膜についての研究が進められている。また,L1_0_ 型 FeNi 規則合金に関しては,垂直磁気異方性発現と合金の規則度に相関があることが原子レベルの視点から明らかになり,垂直磁気異方性の向上には規則合金相のさらなる増強が必要であることが見出された。この成果も国際学術誌に投稿され,査読ののち採択・公表された。一方,研究分担者により開発された円偏光放射光を用いたメスバウアー分光法に関する論文も,査読付き国際学術誌に採択・公表された。この手法は,物質・物性探査への実用レベルに到達しつつあり,引き続き,鉄/マグネタイト積層膜の埋もれた界面の局所構造・局所磁性の解明研究に活用されている。さらに,スピンホール効果に起因する非平衡伝導電子スピン偏極の検出実験に関して,その試みをまとめた論文が査読付き国際学術誌に採択・公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画された研究ターゲットのうち,L2_1_ 型ホイスラー合金系積層膜,L1_0_ 型規則合金薄膜,磁性/フェリ磁性積層膜界面に対する研究がおおむね順調に進んでいる。前年度実績報告書作成段階で投稿準備中であった 3 報の学術論文はすべて査読付き国際学術誌に採択され,さらに 1 報の学術論文を加えた合計 4 本の学術論文が査読付き国際学術誌に公表された。なお,放射光メスバウアー分光法を用いたスピンホール効果による非平衡電子スピン分極の検出実験に関しては,これまでのところ,試料表面近傍のスピン蓄積を明確に示す実験データが得られるには至っていないが,その挑戦的な試みを詳述した学術論文が国際学術誌に採択・公表された。チャレンジングではあるが興味深い研究対象なので,さらなる実験の継続が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成 26 年度までに引き続き,(1) L2_1_ 型結晶構造をもつホイスラー合金薄膜の界面原子種の制御・同定と電子スピン伝導特性との相関探査,(2) L1_0_ 型結晶構造をもつ規則合金薄膜の界面原子種の制御・同定と垂直磁気異方性との相関探査,(3) 強磁性/反強磁性接合界面および強磁性/フェリ磁性接合界面における磁気的フラストレーション効果を利用した磁性積層膜の磁性制御のサブテーマを中心課題として推進し,放射光核共鳴散乱法やメスバウアー分光法のこれらのテーマに対する有効性を検討していく。また,(4) 非磁性 3d および 4d 金属を対象とした界面効果による強磁性発現の探査に向けて実験を開始するとともに,(5) 非磁性金属への通電時のスピンホール効果の結果生じる非平衡電子スピン分極の検出を継続して試みる。発展著しいスピントロニクス・磁気記録の分野で新たな局所磁性・局所構造解明のニーズが生じた時には,適宜これに対応していく。これらの物性研究と並行して,研究分担者を中心に,放射光核共鳴散乱法を用いた薄膜試料測定の効率的化のための放射光ビームラインにおける測定レイアウトの改良と最適化を推進し,測定時間の短縮や S/N 比の向上を進めていく。とりわけ,新たに開発された円偏光光源の高機能化と有効利用を推進する。個々のサブテーマに関する成果を随時とりまとめ,学会発表および論文発表を進めて行く。
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