研究課題/領域番号 |
25287091
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
中村 敏和 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 准教授 (50245370)
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研究分担者 |
古川 貢 新潟大学, 研究推進機構, 准教授 (90342633)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴 / 核磁気共鳴 / 有機導体 / スピン計測 |
研究実績の概要 |
前年度は,装置開発に主眼を置いたが設備の充足に伴い,平成26年度は,電子対相関の舞台となる物質系の基礎物性研究に主眼を置いた。まずは,NMR計測系の更新が行え感度が向上したので,種々の物質系の計測を行った。ESR系も,まずは典型的な一次元電子系であるTMTTF系と呼ばれる物質群に対して,パルスESR計測を行いRabi振動の観測に成功した。このスペクトルの詳細な解析から電子対間距離に関する情報が得られるが,現在検討を行っている。 申請段階で想定した有機導体研究,1一次元有機導体 (TMTTF)2X系は引き続き試料を作成し測定を行っている。2二次元電子系κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3に関しても顕著な結果が得られているが,論文発表の後に報告したい。この他に,自己キャリアドープTTFCOO系ならび類縁体の電子状態が明らかにすることが出来たので,論文発表すると共に詳細な続報を投稿準備している。平成26年度は,これら当初念頭に置いていた有機導体研究に加えて,酸素架橋ルテニウム二核混合原子価錯体についても,予想外の進展であったために勢力を注入して課題を遂行した。詳細な磁気測定を行ったところ, 1H-NMRスピン格子緩和率は33K近傍に顕著なピークを示し,室温で等価であった原子価が低温で不均化,つまり酸化物や有機導体系で観測されるような電荷秩序転移が起こっていることが分かった。これらの研究は,やはり常磁性電子対の生成消滅過程に関わるものであり,本課題の対象としても,重要な意味を持っている。強相関系ではないと思われる系の電荷秩序形成はユニークで,さらに研究を進めたい。すでに幾つかの学会で発表済みであり,国際誌にも投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで概ね順調に進んでいると判断できる。平成25,26年度までにパルスESR計測系ならびに核磁気共鳴系の構築が為され,対象となる物質系の作成も出来,基礎物性計測も行えた。典型的な一次元電子系であるTMTTF系はすでにパルス計測へとステージが移っておりデータを蓄積している。この系のパルスESR計測からRabi振動の観測に成功した。このスペクトルの詳細な解析から電子対間距離に関する情報が得られるが,現在検討を行っている。この結果を受けて二次元系への展開を行うほか,電子-電子および電子-核二重共鳴計測にのぞむ。また,自己キャリアドープ型TTFCOO系ならび類縁体の電子状態研究ならびに,酸素架橋ルテニウム二核混合原子価錯体の電荷秩序相転移研究に関する飛躍的な研究発展があったために,研究対象の拡がりや波及効果も期待できる。自己キャリアドープ系の強磁場ESRならびに1H-NMR測定はすでに完了しており,現在論文投稿準備中である。次元性やドーピング量が制御可能で従来の有機導体ではカバー出来ない網羅的な研究が可能な対象となっている。また,新規な系も開発されており物質開拓面でも次年度以降のさらなる成果が期待できる。酸素架橋ルテニウム二核混合原子価錯体は,触媒や光合成材料で着目され豊富な物質が合成されている。一方で電荷秩序相といった長距離秩序が存在することは,物性物理の格好の対象であり,マルチフェロイックなど応用物性の観点からも興味深い。これらの研究成果に関してはすでに第一報の発表を行っており,詳細な続報の投稿準備を行っている。平成27年度以降は,これら当初想定していなかった新たに開発された系の進捗も踏まえ,一連の物質群への先端的な磁気共鳴測定による研究進展の目処が付いた。
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今後の研究の推進方策 |
パルス電子-電子二重共鳴や電子-核二重共鳴といった空間・時間分解可能な計測により,電子対相関が重要な反強磁性・スピン一重項転移・超伝導・Valence-Bond状態など,多体系の相関関数を空間的・時間的に直接的に計測する。ESR・構造解析・分子軌道計算の研究結果と密接に連携を行い,電子対の起源を理解し,競合する電子相の発現機構解明にせまる。上記研究と平行して,外場誘起時間分解計測による非平衡状態での電子対の構造およびダイナミックス計測研究に挑む。 電子-電子二重共鳴は,異なる二つの共鳴周波数のマイクロ波を照射することで,電子間の干渉から距離に関する情報を得る計測手法である。加えて,微視的な測定手法であるので,非晶質試料でも計測が可能であり,また統計的な分布に関する情報も得ることが出来る。動的情報が得られ,非平衡状態の時間分解計測も行えることは,X線計測では得られない有利な点である。低次元有機導体単結晶試料に対してこの電子-電子二重共鳴や電子-核二重共鳴を適用し,電荷分布の異方性や温度依存性,また動的挙動に関する知見を得る。有機導体は軽元素から構成されスピン軌道相互作用が小さく,低次元電子系であるためにスピン緩和が遅く,磁気共鳴計測から得られるスピン・電荷揺らぎに関する情報は非常に重要である。 平成27年度は引き続き上述の課題を推進する。加えて,Rabi振動による電子-電子相関計測を整備し,中から長距離の距離相関精密解析,ならびに遅いタイムスケール(msec~μsec)の動的情報を調べる。これまでにも13C-NMRや誘電緩和測定により非常に遅いスケールでの電荷・スピン揺らぎが報告されているが,その起源については推測の域を出ていないのが実情である。最近の進展を踏まえ有機導体系,導電性機能性物質に加えて混合原子価金属錯体の電荷・スピン間相互作用に関する知見の考察も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,実験データ解析のための謝金等に当てていた人件費に関わる予算が,所属機関に負担して貰えることになったため,科研費の効率的な運用を考えるために次年度へ繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
実験遂行のための消耗品費ならびに成果発表のための旅費ならびに論文投稿料などに充当する予定である。
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