研究課題/領域番号 |
25287093
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山口 尚秀 独立行政法人物質・材料研究機構, 超伝導線材ユニット, 主任研究員 (70399385)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ダイヤモンド / シュブニコフ・ドハース振動 / 電界効果 / イオン液体 / 超伝導 / 金属絶縁体転移 |
研究概要 |
ダイヤモンドの表面にイオン液体を用いた電界効果によって高密度伝導キャリアを蓄積し、高温超伝導および強電界下新規物性の発現を目指す研究を推進した。 電界効果によって水素終端ノンドープダイヤモンド表面に10^13 cm^-2台の面密度のホールキャリアを蓄積することで、抵抗がほとんど温度依存しない金属的な表面伝導状態を得ることに成功し、この詳細についてJ. Phys. Soc. Jpn.誌(82, 074718 (2013))に発表した。 このような高密度キャリアは、理論的には表面から1 nm程度の深さまでに閉じ込められていると予想される。研磨したダイヤモンド基板の表面粗さはRMS値で0.5 nm程度であり、伝導への影響が懸念される。そこで、1マイクロメートルを超えるテラス幅を持つ原子レベルで平坦な(111)ダイヤモンド表面を準備し、その上にデバイス構造を作製した。電界効果によって金属状態にし、低温で磁気抵抗を測定したところ、シュブニコフ・ドハース (SdH)振動の観測に成功した。ダイヤモンドはボロンドープによっても金属化するが、不純物密度が高く散乱時間が極めて短いため、われわれの知る限りこれまでダイヤモンドにおける量子振動観測の報告はなかった。結晶に乱れをもたらさない電界効果による金属化によって、はじめて観測が可能になったと言える。SdH振動は磁場の表面垂直成分のみに依存し、2次元的なフェルミ面の存在を示した。またSdH振動の解析から、表面伝導キャリアの有効質量や散乱時間をはじめて評価することができた。 技術的には、イオン液体への水、酸素の混入をできる限り抑えるため、試料の加熱、イオン液体の塗布、試料ホルダの封止(極低温まで耐えられる)、の一連の作業をAr雰囲気のグローブボックス内(水、酸素濃度1 ppm以下)で行えるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はセレンディピティ的な成果として、電界誘起キャリアによるダイヤモンドのシュブニコフ・ドハース(SdH)振動の観測に成功した。ダイヤモンドはボロンをドープすることで金属化するが、その臨界不純物(ボロン)濃度はSiやGeに比べて、2、3桁高い。このような高密度ドープに伴う結晶の乱れにより、平均自由行程が格子定数程度と極めて短い金属しか得られない。そのためドープしたSiやGeと異なり、ボロンドープダイヤモンドにおいてSdH振動の観測の報告はなかった。電界効果によって原子レベルで平坦な表面に高密度キャリアを蓄積させることによって、今回ダイヤモンドにおいて初めてSdH振動を観測することに成功した。これは、結晶に乱れをもたらさないという電界効果によるキャリア蓄積の特徴を活かした画期的な成果である。強電界下の新奇現象の発現という目標に対しては、当初の計画以上に進展していると言っていい。 ただし、電界誘起キャリアによる高温超伝導発現を本研究の大きな目標としたが、これについては達成できていない。これまでに電界効果により面密度5×10^13 cm^-2のホールキャリアの蓄積に成功した。これは体積密度に換算すると5×10^20 cm^-3程度であり、ボロンドープダイヤモンドで超伝導が発現する臨界キャリア密度(3×10^20 cm^-3)を超えている。しかし、希釈冷凍機を使って極低温(20 mK)までの測定を行ったが、超伝導は確認できていない。上記の体積密度の見積りは、表面深さ方向のキャリア分布の理論予想をもとにしているため、キャリア密度がまだ十分でない可能性がある。ボロンドープと電界効果によるキャリア注入では、超伝導発現のための臨界キャリア密度が異なることも考えられる。今後、デバイス構造の工夫によりキャリア密度をさらに上昇させ、超伝導発現の可能性について詳しく調べる。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の欄に書いたように、これまでにダイヤモンド表面に対する電界効果によって2次元的なシュブニコフ・ドハース振動を示す高移動度金属状態の形成に成功した。今後は、電界効果による高温超伝導発現を目指すとともに、量子ホール効果の発現などダイヤモンドの高移動度キャリアの新規量子輸送現象の可能性を探っていく。これまでに観測したシュブニコフ・ドハース振動の解析から、試料のキャリア密度および移動度には空間的な不均一性があると考えられる。例えばシュブニコフ・ドハース振動から得られる移動度は数千cm^2/Vsであるのに対し、Hall効果から得られる移動度は100 cm^2/Vs程度と小さい。ダイヤモンド表面に接するイオン液体に冷却固化中に入るひずみなどにより、キャリア密度および移動度に不均一性が生じるのではないかと考えられる。今後は改良したデバイス作製方法の確立に努め、試料全体のさらなる高移動度化を目指す。 また、これまでにデバイスへの水および酸素の混入を防ぐため、Ar雰囲気のグローブボックス内でイオン液体の塗布および試料ホルダの封止をできるようにした。これによって電気化学反応を抑えるとともに、デバイス構造を改良することで電界注入キャリア密度をさらに上昇させる。これらの試料について希釈冷凍機を使った極低温までの注意深い測定を行い、超伝導や量子伝導現象の探索を行う。また、研究計画に従い、これまでに達成されていない正の電圧印加による酸素終端表面へのn型キャリアの蓄積を目指す。
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