われわれはこれまでに、電気二重層電界効果によって水素終端ダイヤモンド(111)表面にキャリア(ホール)を蓄積させ、ダイヤモンドにおける量子振動の初めての観測などに成功してきた。(111)表面の低温における磁気抵抗は負(磁場の増加とともに抵抗が下がる)であった。この負の磁気抵抗は、弱局在効果によるものだと考えられる。一方、本研究において水素終端(100)表面の磁気抵抗を低温(2-10 K)において詳しく測定したところ、予期せぬことに、その符号は正であった。この正の磁気抵抗は古典的な軌道による磁気抵抗に比べて極めて大きく、また、磁場の方位にあまり依存しなかった。これらの特徴から、キャリアの軌道ではなくスピンに起因する磁気抵抗であると考えられる。さらに、面平行磁場に対する磁気抵抗比 [ρ(B)-ρ(0)]/ρ(0)が、試料やゲート電圧の値によらず、(磁場B)/(温度T)の関数として表されることがわかった。このことは、乱れた系の電子相関の理論などでは説明が難しい。本研究で発見した水素終端ダイヤモンド表面におけるスピン依存伝導は、今後ダイヤモンドスピントロニクスの実現に向けて重要な意味をもつと考えられる。また、水素終端シリコン(111)表面への電気二重層電界効果キャリア注入の研究も進めた。ダイヤモンドに比べてシリコンの水素終端は不安定なため、酸化されないように試料作製および測定準備に注意を払った。ゲート電圧印加によって、ノンドープシリコン表面のシート抵抗をkΩ台にまで下げることに成功した。
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