研究課題
本研究では、電子論的パラメータを制御した強相関酸化物量子井戸構造を設計・制御し、その量子化状態を角度分解光電子分光(ARPES)により直接設計することで、量子閉じ込めを受けた強相関電子の新奇な振る舞いを明らかにすることを目的としている。そのため、本年度は、下記の2つのテーマを遂行した。○ SrVO3/SrTiO3量子井戸構造における量子化状態に特徴的な、「サブバンド(量子数)に依存した有効質量増大効果」について明らかにするために、精密な角度分解光電子分光とそのスペクトル解析を行った。その結果、この異常な質量増強が軌道選択的量子化に伴った電子状態の2次元から擬1次元への変化を反映したものであることを明らかにした。さらに、この軌道選択的量子化の特徴を用いることにより電子ー電子相関の強さを8倍程度まで制御可能であることを示した。○ SrVO3/SrTiO3量子井戸構造における量子化状態で観測された「軌道選択的量子化状態」について知見を得るために、偏光依存の角度分解光電子分光装置とビームラインを整備した。本装置を用いて、軌道毎に分離した情報を得ることに成功した。これにより、軌道選択的量子化を軌道選択的に観測することが可能になった。
2: おおむね順調に進展している
実験は問題なく遂行され、放射光ビームライン、角度分解光電子分光装置の調整にも多少の遅れがあるが、想定の範囲内である。本研究に必要な偏光依存ARPESデータを取得することが出来るようになったが、このデータ量が膨大なため、その解析、特に解析プログラムの整備に時間がかかっている。
現在、偏光(垂直、水平、円)を切り替え可能なビームラインが稼働し初め、偏光依存のARPES測定が可能になる。これを用いて、軌道の幾何学的な配置を制御した酸化物量子井戸構造を作製し、その「軌道選択的」量子化状態を軌道毎に分離して特定する。これにより、より詳細な量子化状態に関する知見を得る。具体的には、1.面方位の異なる基板((001)、(110)、(111))に作製した面方位制御SrVO3量子井戸構造、2.eg電子をもつ伝導性酸化物LaNiO3を用いたeg系量子井戸構造、3.中間層を導入することで量子井戸構造自体の反転対称性を制御した強相関酸化物量子井戸構造、について実験を行う。また、得られた知見をSrTiO3やKTaO3表面で報告されている量子化状態と比較・検討することで、強相関酸化物の電子状態に関して普遍的な理解を得る。
当初予定していたヘリウムGM冷凍機を用いた試料回転機構では、試料の冷却に問題があることがわかり、2軸試料駆動機構付きクライオスタットの設計を見直した。Heフロー式の試料冷却機構を採用することにした。そのため、2軸試料駆動機構付きクライオスタットの予算執行を先送りした。
現在、2軸試料駆動機構付きクライオスタットをHeフロー式の試料冷却方式を採用し設計を進めている。なお、研究自体は現有の1軸試料駆動機構付きクライオスタットで可能であるが、ビームラインが本格稼働するH27年度6月までの導入を目指している。
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