研究課題/領域番号 |
25287101
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北野 正雄 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70115830)
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研究分担者 |
中西 俊博 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30362461)
小林 弘和 高知工科大学, 工学部, 講師 (60622446)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子光学 / 時間反転対称性 / 光計測 / 量子相関 |
研究概要 |
本年度の時間相関に関する研究として位相超分解の研究をまず行った。位相超分解は光源の波長よりも短い周期の干渉縞が得られる現象である。我々は量子力学の時間反転対称性を利用し、時間反転した光学干渉系によって位相超分解を古典光学的に観測した。この光学系は古典光を用いて実現できるため、高強度の干渉縞を観測することができる。さらにこの光学系を応用して、2光子における幾何学的位相の測定を行った。幾何学的位相とは量子状態の遷移に伴って付加する位相であるが、2光子以上における幾何学的位相の性質について、我々は過去の研究において理論的な予測を与えていた。この理論的予測を検証するために、古典光を用いることができる時間反転した光学系において2光子の幾何学的位相の変化を観測した。その結果、我々が予測した通りの2光子における幾何学的位相特有の非線形変化が観測された。 本年度の空間相関に関する研究としては、時間対称な測定理論である弱測定において、古典的な空間相関を持った「光渦ビーム」の利用を新たに提案し、実証実験を行なった。光渦ビームはドーナツ型の空間光強度分布と中心に位相特異点を持ち、ビーム断面における振幅の空間分布が水平方向と垂直方向の関数に分離できないため、古典的な空間相関を持つビームである。我々は光渦ビームを弱測定の測定系として利用することで、射影測定などの通常の測定手法では観測できない波動関数の実部と虚部を位相特異点の二次元的な位置から直接的に観測できることを示した。さらに我々は上記の手法を光の偏光状態の直接測定に応用し、偏光の状態空間を表わすポアンカレ球の球面と光渦ビームの位相特異点の位置がステレオ射影というシンプルな関係で表わされることを理論的に示し、偏光の純粋状態を用いて実験的に確認した。さらに上記の手法が偏光の混合状態(部分偏光状態)にも適用可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
和周波混合過程を利用した時間相関の検出による干渉実験に関する研究は当初の計画より進んだといえる。2光子干渉における位相超分解においては、比較的弱いパルス光から非常に高い明瞭度の2光子干渉信号を得ることに成功した。それに関する論文は編集者の特選論文(Editors' Choice)に選出されている。さらに、和周波混合過程に偏光依存性を導入することで、2光子における幾何学的位相の観測にも成功した。ここまでは、おおむね当初の計画に沿ったものであるが、これらを発展させることでHong-Ou-Mandel(HOM)干渉を和周波混合で観測する手法へと研究が進展した。これにより、HOM干渉の特徴の一つである、分散の影響を受けない断層撮影を量子光では実現できないような強い信号強度で実現することができる。この研究は既に理論的な考察を終え、実験的な検証へと進んでおり、分散媒質による信号の広がりを完全に抑制したHOM干渉信号の取得に成功している。 空間相関に関する研究では、時間対称な測定理論である弱測定において、古典的な空間相関を測定系に利用することの有用性を理論的、実験的に示すことができた。また空間的なHong-Ou-Mandel干渉の研究に関しては、時間領域の分散消去においてチャープ光の使用が本質的ではないという新たな知見が理論的に得られ、実験的にも証明されたため、この知見を基にして今後の方針を微修正する必要がある。しかし、空間相関の実験に必要となる技術に関しては、光渦ビームを用いた弱測定の実験と空間位相変調器を用いた干渉の基礎的な予備実験を通して準備を行なってきているため、順調に推移していくと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
和周波混合過程を利用した時間相関の検出によるHong-Ou-Mandel(HOM)干渉の応用として、分散の影響を受けない断層撮影の原理実験を行なう。実験においては、古典的なパルス光を光源とするために、HOM干渉を実現するためには、偏光の異なる2光子を2つの空間モードから検出する必要がある。これを実現するために、和周波混合過程においてType2の角度位相整合を利用する。断層撮影を行なう対象としては、透明基板の両面に金属を薄く蒸着したサンプルを利用する。また、同様の現象を同軸の2光子の和周波混合過程で実現する方法についても研究を進める。角度位相整合ではなく同軸の2光子の和周波混合過程を用いることで、さらに強い和周波信号を得ることができる。 空間的な相関に関する研究にも、多くの進展のあった時間相関に関する研究で得られた知見を積極的に導入する。特に、空間的なHong-Ou-Mandel干渉の研究において、時間領域の分散消去にチャープ光が必ずしも必要ではないという我々の理論的知見を利用することができる。空間的な干渉においては、レンズ集光途中の光がチャープ光に相当し、これを用いれば空間的なHong-Ou-Mandel干渉において収差消去が可能となる。しかし我々の知見を基にすれば、レンズ集光途中の光を使用しない、より簡素な実験系を用いて収差消去が実現可能であることが期待できる。本年度はまずレンズによる集光途中の光を必要としない収差消去が可能であることを理論的に明らかにする。次にその理論を基にして空間的なHOMディップを実験的に確認する。また、参照光の空間的な振幅分布や事後選択する波数分布と収差消去可能な空間的位相分布の関係についても理論的な考察を行ない、光干渉断層撮影などの干渉計測への適用可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は、時間領域における順方向過程と逆方向過程の比較を実験的に行なう予定であったが、理論的な研究が大きく進み、両者の間の関係を理論的に明らかにすることができた。その中で、分散補償という非常に有用なHong-Ou-Mandel干渉の応用の可能性を見いだしたので、その研究を最優先に研究した。特に、平成25年度は、断層撮影応用を見据えて所有の実験装置で行なうことができる原理的な実験を実施し、平成26年度に多層構造の断層撮影を検証することにしたため、多層構造のサンプル作成費用を平成26年度に計上することにした。 Hong-Ou-Mandel干渉の応用として分散の影響のない断層撮影を検証するため、多層の反射構造を作成する必要がある。そこで、分散のある透明基板の両面に金属を薄く蒸着したサンプルを作成するために繰越金を利用する。
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