研究実績の概要 |
多細胞生物の形成過程において、細胞達が集団で運動することは重要である。しかしながら、細胞集団による運動のメカニズムは不明である。本研究の目的は、多細胞集団が巨視的な形態を形成する際の力学機構を明らかにすることである。そのために、3次元培養環境でシスト構造を形成する細胞集団を用いて、細胞と細胞の接着を決定する因子の同定し、細胞と基質間の接着力と細胞が出す力の空間分布を評価する技術を開発する。力学バランスの観点から細胞達による集団運動の機構を解明する。細胞運動方向の3次元空間での持続時間を評価する。また、細胞集団の周辺のゲル基質を染色し、蛍光像の時間変化から細胞外基質における応力分布を解析するプログラムを開発する。さらには、数値シミュレーションを用いることによって、細胞集団の運動を数理的に表現する。本年度は、細胞核を蛍光ラベルしタイムラプス観察することで、細胞集団における個々の細胞の運動を評価する技術を確立した(2016 T. Mizutani, et al., Data in Brief)。2次元空間での細胞運動に対して、持続時間を評価することに成功した。また、遺伝子改変細胞の集団が出す力を評価するシステムを構築した(2015 T. Mizutani, et al., Biochemical and Biophysical Research Communications)。これにより、ヒトAAVS1遺伝子座への遺伝子改変には、細胞の力が変化することを報告している。また、基質の粘性を変化させた際に、細胞集団の運動性ならびに細胞集団から成る3次元組織の形状に大きな影響が生じることを発見した(2015 M. Imai, et al., Scientific Reports)。この影響は、発生する細胞の力と基質の物性とのバランスによって決定されることを明らかにした。更に、幾つかの細胞-細胞間接着タンパク質を欠損させた際に、細胞達の集団運動性が大きく変化することを学会発表した(2015 水谷 日本生物物理学会年会)。
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