研究課題/領域番号 |
25287108
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
深尾 浩次 立命館大学, 理工学部, 教授 (50189908)
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研究分担者 |
貞包 浩一朗 立命館大学, 理工学部, 助教 (50585148)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 多層膜 / 誘電緩和 / α過程 / β過程 / 電極分極 / 位置分解測定 |
研究概要 |
今年度は以下の3項目について研究を行った。 1. ポリメチルメタクリレートの多層積層膜を作成し、そのガラス転移ダイナミクスのアニール過程における時間変化を誘電緩和測定により調べた。その結果、α過程のダイナミクスは積層直後には超薄膜のダイナミクスとして観測されるが、アニールとともに、バルクでのダイナミクスに変化することが明らかとなった。それに対して、β過程のダイナミクスはアニールによる時間変化は観測されなかった。このことから、積層界面でのα過程のダイナミクスが薄膜全体のガラス転移ダイナミクスをコントロールしていることが明らかとなった。 2. ポリスチレン(PS)とポリ2クロロスチレン(P2CS)の5種類の多層膜を作成した。P2CS は極性が強い高分子であるので、PS 薄膜内での P2CS 薄膜からのシグナルを選択的に取り出すことが可能となる。本研究では誘電緩和スペクトロスコピー法に、この多層膜法を応用することにより、様々な位置に挿入したP2CS のα過程のダイナミクスのアニール過程での時間変化を選択的に観測することに成功した。その結果、薄膜内でのダイナミクスの動的不均一性が明らかとなった。 3. 非常に極性の強い非晶性ナイロン共重合体の薄膜に対して、ダイナミクスの膜厚依存性を誘電緩和スペクトロスコピー法により調べた。電極分極(EP)に起因した誘電緩和のシグナルが明確に観測され、その緩和時間の温度依存性が Vogel-Fulcher-Tammann型に従うことがわかった。このことは、EPの分子論的なメカニズムに α過程が深く関係していることを意味する。さらに、EP の緩和時間から評価したfragility 指数が膜厚の低下とともに、より大きな値へ変化し、ガラス状態がfragileなものへ変化することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の遂行に関して問題となり得ることは、多層積層膜中での特定の位置からのシグナルを選択的に取り出すことが可能かということであった。その点に関しては、これまでの実験技術の蓄積が予想以上に進んでいたことにより問題なくクリアでき、結果として当初の計画以上に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、高分子多層膜、積層薄膜の誘電緩和測定により、様々な位置でのα過程のシグナルを選択的に取り出すことが可能となった。今後は得られている結果の一般性を実験的に明らかにする必要がある。以下に具体的な計画を示す。 1. 多層積層膜を構成する高分子として、ポリスチレンとポリ2クロロスチレン以外の組み合わせを用いて、位置分解誘電緩和測定に挑戦する。具体的には、色素DR1でラベルしたポリメチルメタクリレート(PMMA)とラベルしていないPMMAの多層膜を作製し、同様の位置分解測定を行う。 2. 非晶性ナイロン共重合体薄膜のガラス転移ダイナミクスを今度も継続することにより、この高分子を含んだ多層膜を作製し、ナイロン系高分子薄膜でのフラジィリティの異常性についての研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の遂行上、新たな誘電緩和装置の導入が必要となり、その立ち上げを平成26年度に行うために必要な予算を先送りすることとしたため。 次年度使用額については、誘電緩和装置の立ち上げに必要な物品費に使用する。
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