研究課題/領域番号 |
25287110
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小河 正基 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (30194450)
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研究分担者 |
柳澤 孝寿 独立行政法人海洋研究開発機構, その他部局等, 主任研究員 (20359186)
宮腰 剛広 独立行政法人海洋研究開発機構, その他部局等, 主任研究員 (60435807)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マントル進化 / マントル対流 / 火成活動 / 地球 / 金星 / スーパー地球 |
研究概要 |
本年度は、まず地球と金星について2次元火成活動マントル対流結合系モデルを用いてマントル進化のシミュレーションを行い、どちらの惑星についても、マントルは2段階で進化する事を示した。すなわち、初期のマントルに放射性元素が豊富にあり内部加熱が強かった時期には、ポストスピネル転移とガーネットペロフスカイト転移の効果によりマントル対流は脈動しそのピーク時には激しい火成活動が起こりマントルは強く撹拌されるが、放射性元素が壊変し内部加熱が弱まる後期には、マントル対流はより定常的になり火成活動も連続的になる事を見いだした。特に地球の場合、初期にはカオティックだったプレート運動が後期には定常的になり海嶺火山活動により生成される地殻がコアマントル境界に蓄積し、マントルはグローバルなスケールで不均質になる事を示した。この結果は、地球のテクトニクス史や地震波トモグラフィーの観察結果をよく説明するものである。 次に、地球の10倍の質量を持つスーパー地球のマントルに期待される2次元モデルを用いた熱対流の数値シミュレーションを行った。これにより、スーパー地球では断熱圧縮の効果のためマントル対流は弱められ、特にコアマントル境界から浮上してくる高温プルームは断熱膨張による冷却のため途中で浮力を失い、地表面まで上がって来られないという結果を得た。これは、スーパー地球ではホットスポット型の火成活動が起きない事を示唆しており、そのテクトニクスを理解する上で重要な意味を持つ。 さらに、月のマントル対流を視野に入れて、3次元球殻モデルを用いた熱対流の数値シミュレーションを開始し、一部結果を得始めている。特に、現時点で既に、粘性率の温度依存性のある流体の対流のシミュレーションが十分実行可能であるということを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来の計画では、今年度のうちに、マントル対流火成活動結合系の2次元モデルを用いた数値シミュレーションにより研究の方向性を見定め、その方向性に基づいて、3次元モデルの構築を開始する予定であった。地球と金星のマントル進化の2次元モデルを用いたシミュレーションは順調にすすみ、当初の目的通り研究の方向性を見定める事に成功した。ただ、モデルの3次元化ではやや遅れが生じている。当初は、昨年度中に、地球のマントル対流のシミュレーションにとって必要なプレートテクトニクスのモデルを構築する予定であったが、この部分が技術的困難により思うように進展しなかった。具体的には、運動方程式と連続の式を用いて流速と圧力を計算する部分においてマルチグリッド法による逐次近似法を用いているが、この部分の収束が遅く、しかもリソスフェアの破壊によりプレート境界を新たに発生させる計算で不安定が発生した。しかし、以下の今後の研究の推進方策の部分で述べるように、幾つかこの困難を解消するためのアイディアはあり、それほど深刻な計画の遅れが生じている訳ではない。また、3次元球殻モデルを用いたマントル対流の数値モデルの開発は順調に進んでおり、上述の通り、月のマントルにおける熱対流のシミュレーションも十分実行可能である事を確認した。以上の結果から、達成度は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後まず月のマントル進化を、2次元火成活動マントル対流結合系モデル、及び3次元球殻モデルを用いた数値シミュレーションにより研究する。2次元モデルでは、月のような小型の惑星における火成活動とマントル対流の相互作用の基本的性質をより大きな惑星におけるこの相互作用のものと比較し、なぜ月ではマグマオーシャンがマントル進化に強い影響を及ぼしたのに、地球のマントル進化にはマグマオーシャンの痕跡がほとんど見られないのかという問題に取り組む。また、この研究と平行して、昨年度に引き続き粘性率が温度に強く依存する流体の熱対流の3次元球殻モデルを用いた数値シミュレーションを実行し、その基本的性質を調べる。特に月は地球などと比べてコアがマントルに比べて極端に小さいので、この小さなコアの効果を理解する事を目指す。 次に、地球の理解にとって基本的に重要なプレートテクトニクスの数値モデルの3次元化を目指す。昨年度は技術的困難により、予定通り研究が進まなかったが、運動方程式と連続の式の数値解放を工夫する事によりこの困難の解消を目指す。具体的には、プレート境界で起こるリソスフェアの破壊のモデルにスムージングをかけて極端な破壊の発生を抑えたり、流速と圧力の計算において現在使用しているマルチグリッド法を細かいメッシュ上でのみ用いることにし、荒いメッシュでの計算は直接解放で行う事を検討している。 最後に、スーパー地球の数値シミュレーションを続行する。まず、地球の10倍の質量を持つ惑星においてリソスフェアが発達する条件を見いだし、次に、その質量がどれくらい大きくなると、昨年度見いだしたような断熱圧縮の効果が重要になって来るのかを解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の支出予定の主要部分は、ハイパフォーマンス並列計算機の購入であったが、計算機は頻繁に新機種が開発され、そのたびに価格が変動するため、当初予定していたより低価格で導入できた。また、論文投稿料の支払いを予定していたが、この論文の査読に当初の想定より長い期間を要したため、支払い請求が来るのが次年度にずれ込んだ。 昨年度支払う事を想定していた論文は今年度のはじめに出版されたので、この投稿料を支払う。また、使用しているハイパフォーマンス並列計算機に使用しているディスクサーバーの老朽化が進んでいるため、実際に故障が起こる前に今年度機種更新を行う。
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