前年度開発した雲特性推定と雲追跡を含む統合型雲解析システムを用いて,静止気象衛星ひまわり8号搭載AHIのデータ解析を行った。山岳波によってできた波状巻雲や強い偏西風に伴う巻雲,熱帯のメソ対流系,台風などの典型的な事例について解析を行った。この解析に伴い,パターンパッチングに基づく雲追跡法を改良して,雲頂高度の異なる多数の雲群を同時に追跡できるようになった。追跡結果は系統的に解析できるように,データ形式を定め,付随する解析コードを整備した。追跡した雲群を特徴付け,条件を付けて検索し,選択された雲群についての統計的な時系列変化を導出できるようになった。雲追跡法の詳細と事例解析結果については現在論文投稿中であり,一部の結果は論文を準備中である。前年度開発した統合型雲解析システムの手法と検証結果については論文1本を公表した。 また,赤外波長を用いる本研究の手法と太陽反射光を用いた衛星プロダクトとの比較を行い,氷晶の形の仮定によって散乱角依存性がどのように変わるかを求め,氷晶の形に関する知見を得た。その結果によると,南北緯度60度以内では平均的には氷晶の表面粗度が高く,滑らかな表面を持つ氷晶雲は稀であることがわかった。氷晶の表面特性の地域や気温による違いは明瞭ではなかったが,冷たい雲の方が氷晶は小さく,粗度の高い粒子が観測値をよく説明できることがわかった。これらの成果は,巻雲の物理特性を気候モデルにおいてよりよく表現し,気候モデルの信頼性を向上する事に役立つと期待される。
|