研究課題
基盤研究(B)
まず,冬季モンスーンの変動をもたらす「西太平洋(WP)パターン」の力学特性について,JRA55月平均データに基づきエネルギー収支解析から明らかにした.他海洋域で卓越する偏差とは異なり,偏西風ジェット気流の出口付近での運動エネルギーの変換効率は高くなく,寧ろ有効位置エネルギー変換が極めて効率的であり,これには偏西風ジェット気流に伴う南北気温傾度のみならず,寒冷なアジア大陸と比較的温暖な太平洋との海陸気温差を反映した東西温度傾度も重要で,これと整合的にWPパターンに伴う気圧偏差は高さと共に南西に傾く特徴を発見した.一方,JRA55月平均データを用いた解析から,夏季小笠原高気圧の勢力を左右するPJパターンの振幅が顕著な長期変調を示すことを見出した.故新田教授が30年以上前の限られたデータから発見した時期がPJパターンの最盛期であったのに対し,近年はPJパターンが減衰する一方,別な変動パターンが卓越してきたことを見出した.一方,梅雨期に比べて解明の遅れている日本周辺の秋雨期についてもJRA55データに基づく解析を進めた.月平均降水分布の循環場の特徴を調査したところ,梅雨期における先行研究と同様に対流圏中層の水平暖気移流が鉛直流を引き起こすことによって降水が維持されていることを示した.但し,秋雨期の暖気移流は梅雨期に比べて水平規模が小さく,日本付近に限定される.これを反映して,IPCC第4・5次評価報告書に関与した多くの気候モデルの気候平均場においては,この水平暖気移流のモデル内の表現が東アジア域の平均的な降水分布のばらつきの一要因となっていることも見出した.
2: おおむね順調に進展している
後述のように(追加プロダクトも含めた)JRA55全球再解析データの嘗てない膨大さにより,その前処理に予想以上の時間を費やした部分はあったが,比較的データ量の少ない月平均場に基づく解析を先行させ,上記のような重要な成果を得た.実際,研究計画通りにWPパターンの力学特性を初めて明らかにし,その成果を論文として取り纏めているところである.さらに,PJパターンについても興味深い近年の弱化と新たな変動パターンの出現を見出した.また,秋雨期の気候平均降水を,それをもたらす大気循環場,海面水温,水収支の観点から調査し,その梅雨期との相違点を明らかにしたのも研究計画通りで,それに合わせ,気候モデル中での降水の再現性を調べ,そのバイアスが生じる原因を観測場から得られた知見に基づき調査できた.
冬季のWPパターンについては,JRA55の特性を活かし,既に長期変調が起きたかを調査し,もしあればエネルギー収支解析からその要因を探求する.一方,既に確認されたPJパターンの長期変調についても同様に,エネルギー収支解析から,擾乱構造の変化と背景場の変化のどちらが効くかを評価する.同時に,PJパターンに代わって近年卓越するようになった新たな循環偏差の力学特性を明らかにする.これら卓越偏差パターンの変調に対し,背景場の変化に対する変調がどの程度力学的影響を及ぼすかについて,線型傾圧モデルに基づく特異値解析による力学診断を加える.さらに,IPCC第4・5次評価報告書において同様な変調が再現・予想されているかも調査する.さらに,亜熱帯降水帯の変動について地域・季節を拡げて全球大気再解析データの解析を行う.加えて,気候モデル中の秋雨のモデル平均としての将来変化,および,将来変化のモデル間ばらつきをもたらす要因を明らかにし,その梅雨期との違いを明らかにする.また,各季節の中緯度各地の降水帯の特徴を調べ,これまで明らかになった知見が適用できるか調査する.さらに気候モデルの出力結果を用いてそれらの再現性と将来変化を大気循環変化の観点から明らかにする.課題としては,秋雨期においては前線性の雨と台風の雨を判別することで,日データを用いて台風性の雨を抽出する方法を検討する.
気象庁による最新の全球大気再解析JRA55データの本プロダクトは,過去55年間において6時間毎の全球大気状態を緯度・傾度1.25度間隔の格子点上に再現した膨大なデータである.移動性高低気圧に伴う数日周期の変動の抽出には高周波数値フィルターを55年分のデータ時系列に施す必要があり,かつこれら短周期擾乱から長周期変動へのフィードバックを評価するには,擾乱に伴う渦度や熱フラックスの収束・発散を評価し,3次元Poisson方程式を6時間毎に解く必要がある.この処理に想像以上に時間を費やした.加えて,本プロダクトとは異なり,データ同化の際に衛星観測データを用いない追加プロダクトや境界条件として与える海面水温データの水平解像度を4倍に高めた(期間は半分)JRA55データの追加プロダクトの作成に気象庁側で遅れがでた.よって,これらのデータを収める目的で計上した費用を26年度に繰越さざるを得なかった.JRA55データの本プロダクトに関する上記副産物の計算がほぼ完了する見通しがついた.また,JRA55データの追加プロダクトもようやく順調に届くようになった.よって,26年度の早い時期にRAID一式を東大先端研に導入し,これらのデータを収めて解析・力学診断に供する予定である.
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すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件) 学会発表 (21件) (うち招待講演 9件) 図書 (4件) 備考 (1件)
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