研究実績の概要 |
南北両半球の中高緯度対流圏大気大循環の季節内~長期変動に卓越し,広範な地域に地表気温や地上風,降水量の変動をもたらす「環状モード変動」は,「ストームトラック」で頻繁に発達する移動性高低気圧からのフィードバック強制により駆動される偏西風「極前線ジェット:PFJ」の緯度のゆらぎとして観測される.現実の南半球環状モード(SAM)を意識して,大気大循環モデルの下方境界条件として現実的な海面水温の南北分布を与えた水惑星実験から,水温前線帯の緯度に対する冬季対流圏環状モード変動の依存性を包括的に調査した. その結果,水温前線を現実的な緯度帯に与える限り,環状モードの正位相では海上偏西風を伴うPFJは常に水温前線帯のやや高緯度側に位置するのに対し,負位相ではPFJが逆に低緯度側に変位するものの,その緯度は水温前線の緯度に依らずほぼ一定という明瞭な位相依存性を発見した.しかも,実際に観測される冬季SAM変動に伴っても,その正位相においては海盆間の水温前線の緯度差を反映してPFJの緯度が決まるため海上偏西風の東西一様性が低下するのに対し,負位相においてはPFJの緯度が海盆に依らず一定で海上偏西風の東西一様性が高まるという,水惑星実験と整合性の高い位相依存性を発見した.これに基づき,環状モード変動に関して次の新解釈を提示した.即ち.冬季中高緯度対流圏大気大循環には,水温前線帯からの熱力学的影響を強く受ける凖定常状態の他に,その影響が弱まって大気内部力学の影響が支配的となる別の凖定常状態が存在し,両者間の遷移過程こそが環状モード変動の本質である.この斬新な解釈を提示した成果論文は米国気象学会J.Climate誌に27年度に投稿され,必要な改訂を経て,28年度に掲載された (Ogawa et al.,2016: J. Climate, 29,6179-6199).
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