研究課題/領域番号 |
25287121
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坪木 和久 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 教授 (90222140)
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研究分担者 |
上田 博 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 教授 (80184935)
篠田 太郎 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 准教授 (50335022)
大東 忠保 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 助教 (80464155)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 台風 / 氷晶粒子 / 雲粒子ゾンデ / 雲解像モデル / アウトフローレイヤー / 最大可能強度 / 台風第27号 / 偏波レーダー |
研究概要 |
台風の強度は第1義的に海面水温と対流圏上端の温度できまる。このうち後者の温度を決める上層の加熱率は、台風中心から周辺に広がるアウトフローレイヤーの雲粒子の特性に大きく依存する。そこでこの粒子を雲粒子ゾンデを用いて直接観測し、氷晶の数密度、粒子の大きさ、粒子タイプを明らかにすることが本研究の目的である。本年度は9月~11月を台風の特別観測期間として、この期間のうち2013年10月23~24日に沖縄本島に接近した台風第27号の観測を実施した。雲粒子ゾンデの観測は沖縄県恩納村にある独立行政法人情報通信研究機構沖縄電磁波技術センターで実施した。雲粒子ゾンデは明星電気により改良された新型で、本観測では特に巻雲粒子を観測するために強制吸引型を用い、顕微鏡画像のみを観測する特別なタイプを用いた。雲粒子ゾンデには明星電気製のGPSゾンデを装着し、気温と湿度を同時に観測した。台風第27号は沖縄本島に24日00UTCに最接近し,その後北東に転向した。23日から24日にかけての遅い移動速度時に台風の中心に相対的に様々な位置で7機の雲粒子ゾンデを放球した。雲粒子ゾンデNo.1からNo.7の放球ごとに徐々に台風に接近した。7回の観測すべてに共通して高度4km~8kmは乾燥しており雲粒子は存在していなかった。この乾燥層の上は氷過飽和の層があり、台風の上部吹き出し層と考えられる。氷過飽和の層はNo.2~No.7でみられ、台風中心に近くなるほど顕著になった。巻雲内の氷晶の粒子は、中心から遠い、No.1~No.5では極めて少なく、中心に近づいたNo.6とNo.7でようやく粒子数が増加した。これら結果から、台風の上部吹き出し層の巻雲は、中心から離れたところでは、粒子数が極めて少なく、中心に200~300km程度の近い所で比較的粒子が多くなり、数100μmの大きな粒子が存在するようになることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
台風の観測はその接近の予測が難しいことから困難な面が多い。しかしながら本研究の初年度の2013年は31個の台風が発生し、そのうちのいくつかが沖縄本島に接近した。雲粒子ゾンデは高額であるので放球できる数は限られている。今回は全部で8個の雲粒子ゾンデを準備し、2回程度の観測を予定していた。すなわち一つの台風につき4個程度を放球する計画であった。台風のアウトフローレイヤーに放球するタイミングは、遠すぎると上層巻雲がなく、近すぎると強風のため観測できなくなる。そのため放球のタイミングを見極めるのは容易ではない。今回の台風第27号の場合は、観測点である沖縄本島に直撃するように接近し、本島にぎりぎりまで接近したのち北東に転向した。しかもその移動速度はきわめてゆっくりであった。これらの条件により、台風周辺に広がる巻雲が長時間にわたって観測点付近に存在するという千載一遇のチャンスに恵まれた。さらに幸いにしてこの上層巻雲に7個の雲粒子ゾンデを投入することができ、これら全てについてデータを得ることができた。観測した台風第27号は接近前までスーパー台風であった点も本研究の趣旨に合致するものであった。当初、台風より十分離れたところでも上層巻雲の粒子は多数あると予想していた。しかしながら観測してみると、雲粒子ゾンデの放球点が中心に200~300kmとかなり接近しなければ、粒子の数が増えないことが分かった。すなわち中心から離れると上層巻雲は数密度が極端に小さくなることが明らかになった。このように一つの台風の事例であるが、観測条件が期待以上によかったため、予定以上の多数の雲粒子ゾンデを投入することができ、さらに中心から遠いところから近くにかけて、段階的に観測をすることができた。その結果、想定外の結果を得ることができた。このような観測ができた点が、当初の計画以上に進展している点である。
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今後の研究の推進方策 |
今回の観測で予想以上によいデータを得ることができたので、その詳細な解析を実施し、台風周辺の上層巻雲の粒子特性を論文にする予定である。さらに引き続き、観測項目、観測領域、期間、実施方法などについて前年度と同様の観測を実施する。名大の偏波ドップラーレーダー(GINレーダー)は、初年度は電波免許取得に想定以上の時間を要したため、今回の台風第27号の観測に間に合わなかったが、平成25年度末には沖縄本島の琉球大学の屋上に設置することができたので、このレーダーを平成27年度まで沖縄に設置し、雲粒子ゾンデ観測と同期した観測を実施する。このレーダーは偏波レーダーであるので、粒子情報を得ることが可能である。このレーダーを雲粒子ゾンデと組み合わせて台風周辺の降水まで含めた粒子特性の全体像を得ることが期待される。観測体制については、前年度の反省を踏まえ若干の修正はするが、基本的には同様の方法で観測を実施する。2年にわたって観測を実施することで、より多くの台風事例を観測することが期待される。また雲解像モデルCReSSを用いて、高解像度の台風のシミュレーションを行い、氷晶粒子や降水粒子の鉛直分布構造をしらべ、加熱率について観測と比較し、氷晶についての計算プロセスの改良を検討する。この場合、加熱率をどのように見積もるかが課題である。これについてはまず簡単なモデルからはじめて、段階的に加熱率の計算の精度を上げていく方針で進めていきたいと考えている。また、観測された雲粒子ゾンデHYVISのデータについて詳細な解析を実施する。具体的には雲粒子の種類と大きさ、及び数濃度について統計を取り、粒径分布についてモデル化をする。また並行して、多数の画像データを処理するための画像解析法による粒子径測定と粒子数カウントを行う方法を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
偏波レーダーの電波免許が下りるのに予想以上の時間を要したため、その輸送と設置が、年度内に可能かどうかについて、年度末ぎりぎりまで確定することができなかったので、輸送費として計上していた経費を次年度に繰り越しをした。 雲粒子ゾンデをできるだけ多く使用したいので、消耗品として雲粒子ゾンデを購入するのに繰り越した予算を充てる。
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