海洋表層の乱流混合の主要因の一つと目されるラングミュア循環の特性を明らかにするため、前年度までに和歌山県白浜沖で行った観測データを整理・解析した。
海底設置ADCPで得られた流速に分散法を適用し、乱流強度の指標となる鉛直流速の分散を求め、それを引き起こす外力である風、熱そして波との関係を調べた。風強制と波強制の比であるラングミュア数(La)と、熱強制と波強制の比であるヘニッカー数(Ho)に対する乱流強度の依存性を調べたところ、LaおよびHoが小さいときに乱流強度が強いこと、得られたLa、Ho依存性はこれまでのラングミュア循環に関する理想的な数値実験で示されたものと整合的であること、などが判明した。これらの結果と、流速の水平分布を計測するために設置したADCPで明らかになった組織的な渦構造から、観測された乱流は主にラングミュア循環に起因すること、また従来の観測(D'Asaro 2001など)では乱流強度のLa依存性が明瞭でなかったのは、熱強制の効果(Ho依存性)を考慮していなかったことが一因である可能性が示された。
また、海底設置ADCPで得られた鉛直流速にスペクトル法を適用し、エネルギー散逸率を求め、分散法で求めたレイノルズ応力から計算されるエネルギー生成項と合わせて、乱流運動エネルギーの収支を調べた。その結果、(多くの数値実験結果が示す)波強制に起因するストークス生成項だけでなく、風強制に起因するシアー生成項も同程度に大きく、両者の和がエネルギー散逸率と概ねバランスしていることが明らかとなった。シアー生成項の卓越は、波向きと風向きの不一致に起因することが示唆され、この不一致を考慮することがラングミュア乱流の評価に重要であることが明らかとなった。
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