高層観測データを用いた研究では、昨年度まで2年間で計4週間行った名瀬と南大東島での強化高層観測で得たデータを用いて、下層水蒸気場の変動についての解析を行った。梅雨前線帯より南側に位置していたときは、概ね高度1km以下で湿っており、大雨の目安となる水蒸気混合比18g/kg以上の気塊が存在している高度に対応していた。梅雨前線帯からかなり離れていた南大東島では、高度500mの水蒸気混合比は名瀬よりも大きかったが、18g/kg以上の気塊は高度700mより下層に限定され、下層水蒸気が蓄積されている層が薄かった。このことから、梅雨前線帯に近づくにつれて、徐々に下層水蒸気が蓄積されていることが示唆された。 客観解析データを用いた研究では、気象庁局地解析を用いて、2016年6月20-21日の長崎・熊本での大雨の発生要因について調査した。大雨をもたらした下層水蒸気は前日には先島諸島付近に存在し、相対的に低い海面水温域を通過することで、水蒸気量がいったん減少したものの、対馬海流域で再び増大していたことがわかった。 数値シミュレーションを用いた研究では、気象庁非静力学モデルを用いて、引き続き平成27年9月関東・東北豪雨を対象に、関東地方に近づくにつれて下層水蒸気が増大したプロセスを調査した。黒潮続流域の高海面水温域での海面からの水蒸気供給が大きく影響していたことがわかった。 4月に行われた東アジア域のメソ気象に関する国際会議に参加して、招待講演として平成26年8月の広島豪雨の事例を中心にこれまでの研究成果を発表した。 4年間で行った研究成果について取りまとめ、その成果の一部については気象庁から発刊した「図解説 中小規模気象学」に記載した。
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