研究課題/領域番号 |
25287126
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野澤 悟徳 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (60212130)
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研究分担者 |
小川 泰信 国立極地研究所, 国際北極環境センター, 准教授 (00362210)
藤原 均 成蹊大学, 理工学部, 教授 (50298741)
堤 雅基 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (80280535)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 北極域下部熱圏 / 中性大気温度 / 大気重力波 / ナトリウムライダー / 北極域中間圏 / 対流不安定 / 力学的不安定 / 流星レーダー |
研究実績の概要 |
北極域オーロラ帯に位置するノルウェートロムソ(北緯69.6度、東経19.2度)にて、ナトリウム(Na)ライダー、EISCATレーダー、流星レーダーを中心とした下部熱圏・上部中間圏の拠点観測を実施した。ライダー観測が可能な冬季期間、可能な限りナトリウムライダーを稼働し、約470時間のデータを取得した。平成26年12月に、EISCATレーダーとの同時観測を実施し、29.5時間の同時観測データを取得した。
大気重力波の散逸過程に関する研究と、成層圏突然昇温(SSW)時における半日潮汐波の研究を実施した。地磁気活動が静穏な2010年10月29日1630 UTから2430 UTにおいて、みかけ周期約4時間の大気重力波がNaライダーにより観測された。この大気重力波は、1630-2100 UTにおいて、高度約95 kmまでのみ上方伝搬していたが、2100 UT以降はさらに高高度まで伝搬していた。ブラントバイサラ振動数とリチャードソン数から、2100 UT以前には高度95 km付近で断続的に対流・力学的不安定が発生していたことが明らかになり、MFレーダーエコー強度の増大も観測された。その結果、この大気重力波は、2100 UT以前、対流・力学的不安定によって砕波し、散逸していたと結論した。2100 UT以降はそれ以前と比較して、平均温度の鉛直勾配が緩やかであり、背景大気がより安定な状態であった。これは、背景大気温度構造の違いが、大気重力波の上方伝搬に支配的な影響を与えていたことを示唆する。2012年1月に発生したSSW時における下部熱圏・上部中間圏の応答を北緯約75度に位置するベアアイランド流星レーダーとエウレカのファブリペロー干渉計を用いた調べた。その結果、従来モデル研究から指摘されていた東西波数1の半日潮汐波の振幅増大は見られず、通常の東西波数2ないし3が支配的であったことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
冬季観測シーズン開始の9月から10月にかけて、レーザー発振機のミラーおよびレンズの交換を実施するとともに、受信機に用いるフォトマル(PMT)4台を更新し、ナトリウムライダーの改良を実施した。この結果、より高品質データの取得が実現し、時間分解能3分の観測が、高度80 km から100 kmにおいて実現できた。また、平成26年12月には、EISCATレーダーとの同時観測を実施し、好天に恵まれ29.5時間の同時観測データを取得できた。ナトリウムライダー観測を継続的に実施し、高度80 kmから110 kmにおける計470時間の中性大気温度、中性風速、ナトリウム密度のデータを取得した。
ナトリウムライダーデータの解析を進め、大気重力波の散逸過程について、観測データに基づき、大気重力波が対流・力学的不安定によって砕波している事例を捉えた。また、背景温度勾配の違いが、この散逸過程を制御している示唆を得た。さらに、流星レーダーおよびファブリペロー干渉計(FPI)の風速データを用いて、成層圏突然昇温時における高緯度半日潮汐波の変動を調べた。このように研究・観測活動はおおむね順調に進んだ。
一方で、平成27年1月後半から3月前半まで、種々の理由により、ナトリウムライダー観測を実施できず、特に2月のナトリウムライダー観測データの取得ができなかった。また、上部成層圏の客観解析データの取得・解析が遅れている。これらの理由により、「やや遅れている」状況であると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
ナトリウムライダーのさらなる整備を行い、さらに安定システムを構築する。これにより、経験が浅い大学院生による長時間オペレーションを可能にする。これにより、ナトリウムライダー観測を、冬季の観測シーズン(11月から2月)において、可能な限り連続的に実施する。さらに、客観解析データを用いて、成層圏突然昇温時における、北極域成層圏大気温度変動と下部熱圏・上部中間圏大気温度変動の関係を調べ、大気上下結合過程を調べる。また、ナトリウムライダーデータを用いて、成層圏大気温度の導出を試みる。そして、客観解析データを用いて、ナトリウムライダーにより導出した成層圏大気温度の評価を行う。これらを通して、下部熱圏・上部中間圏大気温度変動を調べ、大気上下結合の理解を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年1月中旬、高度80-110 kmの大気温度・風速観測に使用していたナトリウムライダーに不測の故障が生じた。このため、当装置の修理・調整が必要となり、観測再開まで、1ケ月以上を要した。このため、予定していた2月のキャンペーン観測ができず、その観測を、(冬季しか実施できないため)平成27年10月に実施することした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年10月に、ナトリウムライダーを用いてキャンペーン観測を実施し、下部熱圏・中間圏の大気温度・風速およびナトリウム密度データを取得し、大気上下結合の研究を進める。
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