研究課題/領域番号 |
25287131
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
狩野 彰宏 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (60231263)
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研究分担者 |
坂井 三郎 独立行政法人海洋研究開発機構, その他部局等, 研究員 (90359175)
柏木 健司 富山大学, その他の研究科, 准教授 (90422625)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 石筍 / 古気候 / 安定同位体 / 微量元素 / トゥファ / 完新世 |
研究実績の概要 |
長期的気候変動予測のための陸域古気候記録を解読するため,新潟県・岐阜県・三重県の鍾乳洞に発達する石筍の年代と酸素・炭素同位体比と微量元素含有量を測定した。年代測定では,台湾大学の沈川洲教授の協力を得て,精度の良いU-Th年代が得られた。また,過去の気温を定量的に復元するために凝集炭酸同位体温度計の測定システムの開発を進めた。 新潟県福来口鍾乳洞で採集した完新世の石筍については,新たにMg/Ca比を測定し,その記録が前期完新世(6千年前以前)では温度変化を,後期完新世(6千年前以降)では約2千年周期の乾湿変動を反映していることが分った。この成果は国際誌に投稿し受理されている。 岐阜県大滝鍾乳洞で採集した石筍については,完新世の気候記録に明瞭な650年周期を見出した。これは,小氷期や中世温暖期などの歴史記録で認識される温暖/寒冷変動の周期とほぼ一致する。おそらく,酸素同位体比は冬期/夏期の降水量比率を反映していると思われる。また,58-35kaの期間の記録にはダンスガード・オシュガーサイクルと対比できる変動が確認された。この変化は日本海深海堆積物に記録される物と同等であり,海と陸上の気候的リンクを暗示している。 三重県霧穴で採集した石筍については,2試料を対象に研究を進めている。1つは過去1万4千年間で形成したものであり,酸素同位体比に中期~後期更新世における650年周期の変動を記録する。また,ヤンガードリアスの寒冷期に対応する酸素同位体比の変化の確認されたが,その増加幅は南部中国で報告されたものに比べて著しく小さい。降水ソースである太平洋に近い霧穴では,雨水の酸素同位体比は気候変動に対して敏感ではない可能性がある。2つめの石筍は過去1万年間に形成したもので,より解像度が高い記録を提示する可能性があり,今後は酸素同位体比の測定を進めて行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公表論文は少なかったものの,石筍の分析作業は大きく進展した。台湾大学で行ったU-Th年代測定は予想以上に良好な結果であり,岐阜県の2本と三重県の2本の石筍に対して,信頼度の高い年代モデルが得られた。 安定同位体の測定結果からもいくつかの興味深い事実が明らかになった。中でも特筆すべき事実は,これまで日本の陸域気候からは未報告であった650年周期の認定である。この周期は岐阜県と三重県で認識されており,日本列島の完新世気候変動の特徴である可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により,新潟県の試料についてはほぼ満足のいく結果が得られた。今後は岐阜県と三重県の試料に力点を置いて行きたい。石筍の分析だけではなく,その酸素同位体比の解釈に必要な雨水の分析も継続して行う。データが良く揃っている岐阜県の試料については,来年度中に公表論文を準備する予定である。 また,新たな試料を求めて,長崎県,福岡県,大分県,熊本県の鍾乳洞の探査を進める。さらに,トゥファを用いたより高精度の研究も再開したい。 技術的には凝集炭酸同位体温度計の開発に加え,琉球大学の協力を得て流体包有物の測定を行い,石筍から過去の温度変化を定量的に導きだす計画もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
凝集炭酸同位体温度計のシステム開発が予定より遅れてしまい,消耗品類の購入を控えた。また,年代測定が予想以上に進展したため,それに使用するための物品費が節約出来た。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は野外調査等にかかる分析を頻繁に行なうとともに,凝集炭酸同位体温度計のシステム整備を進める。
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