研究課題
基盤研究(B)
東北地方太平洋沖巨大地震は、比類の無い大きな津波を引き起こした。その津波を巨大化した直接原因は、日本海溝付近のプレート境界断層が50mにも及ぶ、前例のない程大きくすべったことである。断層のすべりを決定する主要な要素の1つは断層近傍の応力状態である。平成24年度、地球深部探査船「ちきゅう」による「東北地方太平洋沖地震調査掘削(略称JFAST)」は、日本海溝付近の、東北地震時に断層が最も大きくすべった海域において、プレート境界断層を貫通する掘削を行った。研究代表者は、断層近傍の応力状態を決定するためにこの研究航海に参加して、船上で非弾性ひずみ回復(ASR)測定等を行うとともに航海後詳細解析用の貴重な掘削コア試料と検層データの配分を受けた。本研究は、この掘削コア試料等を用いて様々な実験研究を行い、掘削孔内、特にMw9.0の巨大地震時にすべった断層近傍の応力状態を正確に決定することを目的としている。研究内容は、応力解析モデルの最適化検討を行ったうえ、コア試料を用いて各種必要物性パラメーターを実験的に求めて、船上で実施したASR測定のオリジナルデータと組み合わせて三次元応力状態を決定することである。平成25年度にはまず、1.検層データから応力の絶対値を決定するためのモデル(Morh-Coolumbやmodified Wieboles-Cook)を検討し結果、中間主応力の効果を考慮した後者のモデルを用いることが望ましいことが判明した。次に、2.ASR船上測定に用いたコアの方位を古地磁気測定により決定し、ASRによる応力方向の途中結果を得た。さらに、3.ASR船上測定のひずみデータを応力値に換算するために、粘弾性定数を実験的に求める測定システムの構築と試運転を終え、次年度早々から本格的な実測実験ができるようになった。また、平成25年度に関連する成果の発表も行った。
2: おおむね順調に進展している
応力解析最適モデルの検討、コア方位の古地磁気測定、また、粘弾性係数の実測システムの構築もほぼ当初の予定で、進捗していたとともに、関連する研究成果の発表もできた。
平成26年度より、東北地震の震源域であるJFASTサイトの掘削コアによる粘弾性係数の測定を実施するとともに、対比するために震源の北側に位置する下北サイトの掘削コア試料の方位測定も行い、東北地震時にすべった断層近傍の応力状態を決定していく。また、得られた結果を論文投稿および国際・国内の学会発表により公表する。
掘削コア試料の粘弾性係数測定については、予備実験を行った結果、実験時間が1試料について3週間以上必要で、当初予想よりさらにかかることが判明した。そのため、実験消耗品や他の既存装置と併用予定のデータ収録装置と計測用パソコンを専用のものとして平成26年度に購入する必要が出てきた。そのため、平成25年度の支出予定を抑え、基金の一部を次年度に繰り越した。各種実験研究に必要なデータ収録装置・測定用パソコン・測定センサー・消耗品などの物品費、学会発表・調査等の旅費、研究補助の人件費およびその他(論文投稿費や論文原稿の英文校閲費)に使用する予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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