研究課題/領域番号 |
25287138
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
野村 律夫 島根大学, 教育学部, 教授 (30144687)
|
研究分担者 |
入月 俊明 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (60262937)
井上 睦夫 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (60283090)
辻本 彰 島根大学, 教育学部, 講師 (60570554)
林 広樹 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (80399360)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 酸性化 / 沿岸汽水域 / 堆積速度 / 富栄養化 / 沿岸水の動態 / アンスロポシーン |
研究実績の概要 |
今年度は,石灰質有孔虫の殻に確認される溶解現象について,堆積速度との関係およびα線測定装置であるRaDeCCの購入により,以下のような結果を得ることができた。 宍道湖の堆積過程については,新たに7地点を加えて,今年度までに計27地点のコア試料を分析することができた。コア試料を5~10mm幅で切断し,連続分析すると,Cs-137のピークが明瞭に確認される。この結果を基に斐伊川河口からの距離とCsのピーク深度をみると,斐伊川河口に近い宍道湖西部ではコア深度20cm,湖心部では10cm,そして宍道湖東部では数cm程度まで低下している。距離と深度との関係には明瞭な相関がみられ,また斐伊川河口から東へ10km付近を境にして,東西でそれぞれ異なった明瞭な相関が得られた。 堆積速度と有機物量の変化については,米子湾奥部の加茂川河口域で1年間実施した結果,有機物負荷量が高く,堆積速度の速いことが石灰質殻の溶解を速めていることが明らかになった。米子湾におけるこの調査結果は,予想に反して,上述の宍道湖東部で得られた結果と異なることになり,再検討が必要になった。貝殻片の宍道湖のおける溶解実験では,夏季の溶解量(~0.8g)は冬季のそれ(~0.2g)より4倍高く,明瞭な季節変化を昨年度と同様に確認した。 中海のRa-224とRa-228の広域分布調査において,Th-228の分布についても検討した。ラジウム放射能比(Ra-224/Ra-228)と比べて(Ra-224/Th-228比)は,河川の影響を反映しやすい分布を示し,中海の表層水のRa/Th比は,大橋川河口域で20~13,飯梨川河口域では12,大根島の東部水域では8~9であり,塩分の分布とおおよそ反対の傾向を示した。海水・河川水・沿岸水の拡散・混合過程をトレースするうえで有効な指標になり得るものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
26年度の目標としていた3項目について,それぞれ次年度へつなぐことができる成果をあげることができた。 (1)歴史的背景の解明のためのコア試料の分析と解析による堆積速度の解明と石灰質有孔虫(メイオベントス)の保存状態の確認。(2)酸性化の要因となる底質への有機物の負荷と保存,および石灰質有孔虫の月別保存状態の記録。(3)ラジウム(Ra-224, Ra-228)およびトリウム(Th-228)同位体による水の流動性評価のための基本データの収集と中海におけるラジウム同位体比およびトリウム同位体比の分布調査。
|
今後の研究の推進方策 |
宍道湖における堆積物・有孔虫の調査と湖水の動態を継続して行う。26年度末までに宍道湖では27地点のコア試料を採取しており,鉛210法とセシウム137法で年代測定が完了した。しかし,堆積速度と有機物量の変化について,米子湾奥部の加茂川河口域で1年間実施した結果,有機物負荷量が高く,堆積速度の速いことが石灰質殻の溶解を速めていることが明らかになった。この米子湾の調査結果は,宍道湖で得られていた従前の結果と異なることになったため,堆積速度のはやい宍道湖西部のコア試料を約10地点で採取して,有機炭素・窒素分析と石灰質有孔虫の保存状態について再検討する。また,宍道湖の水深5.5mに貝殻片を1m間隔で設置して,1ヶ月の炭酸塩の溶解量の変化を捉える検証調査は,溶解量が夏季に高く,冬季に低下する明瞭な季節変化を追認することができた。しかし,月によっては溶解量に変化がみられることもあり, 27年度も調査を継続したい。併せて,28年度に実施したいと考えている石灰質殻の溶解に関する予察的実験を野外の水槽を使って行う。 26年度の水の動態調査において,RaDeCC装置で短時間に測定できるTh-228の有効性についても示唆することができた。水の動態を検討する効果的手段として,宍道湖(場合によっては中海・久美浜湾)で測定地点を密にした調査を行う。 石灰質殻の溶解に関係する有機物については,宍道湖及び中海のコア試料を使って炭素・窒素の同位体分析を行う。これまでの分析で堆積物の年代も特定できることから,石灰質殻の溶解が進行したとみなせる1950年代以降の試料を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
26年度に予定していた宍道湖水の滞留時間および湖水の動態解明が,8月以降の天候に影響され湖水の塩分が低く推移した。従前の調査が3月と9月であったため,予定していた比較ができなかった。そのため,宍道湖での大規模なRa同位体比(Ra-224/Ra-228)の分布調査を見送らざるを得なかった。(26年度に購入したRaDeCCの効果については,塩分が高い中海で予定していた調査を行い,検証した。)
|
次年度使用額の使用計画 |
Ra同位体比を利用した湖水の滞留時間や湖水の混合過程を効果的に解明するために,降雨量の変化をみて,低塩分の時期を避けて実施したいと考えている。調査範囲についても塩分との関係が求めやすい宍道湖東部に限った調査によって,当初の目的を達成させたい。場合によっては,中海における調査を継続させたい。
|