研究課題
開口火道を持ち継続的にマグマを噴出する活火山では、噴出物の物質科学的モニタリングによって、活動の推移予測ができる可能性がある。これまでマグマの上昇速度の推定に用いられてきたマイクロライトの減圧結晶作用は、爆発の発生を支配する浅部火道での滞留時間や、ガス過剰圧の蓄積などの過程は反映しない。本研究では (A)地表近くの大きな過飽和条件下で核形成・成長するナノライトの結晶化カイネティクスを明らかにする (B)表面張力による気泡の形状緩和と、それによるガス浸透性の低下、過剰圧の蓄積機構を明らかにする (C)これらを統合して、爆発vs.溶岩ドーム形成という分岐の条件を求めることを目的とする。今年度は、(A-1)まず爆発的噴火噴出物中のナノライトの記載的研究として、爆発的噴火噴出物におけるナノライトの晶出作用のカイティックパラメタ―を求めた。霧島新燃岳2010 年噴火の準プリニー式噴火軽石・ブルカノ式噴火軽石・石質岩片を用い、結晶学的相同定・モード組成測定を行うとともに、鉱物ごとの結晶サイズ分布(CSD)を測定し、CSD 理論に基づき核生成率・成長速度×滞留時間を導出した。これらの結果は論文として国際誌に投稿し、minor revision中である。(A-2)高温封圧下での火山ガラス結晶化・色変化実験では、メーカーにおいてテストを行い、装置を富士大学に導入した。(B)気泡形状緩和による過剰圧発生機構の研究では、 ブルカノ式爆発に必要な、火道浅部での過剰圧の蓄積機構を調べるため、ネットワーク状の気泡を持つ軽石を出発物質として選び、火道浅部に対応する圧力・温度で加熱実験を行った。実験の前後で試料の含水量・発泡度・気泡の形状・サイズ分布・連結度の変化速度を測定するとともに、X線CTによる3次元組織解析を行い、投稿論文の執筆にとりかかった。
2: おおむね順調に進展している
本課題の中心的な研究である、具体的な噴火事例に関するナノライトの記載岩石学について、すでに国際的にインパクトの高い雑誌であるGEOLOGY誌に論文を投稿することができ、微細な修正を行うのみの状態となっている。一方、顕微分光システムの納入に遅れが生じた。それ以外の研究項目については順調に推移している。
(A)天然の火山噴出物の石基組織の高分解能電子顕微鏡観察に基づき、火道浅部でのナノライト結晶作用と噴火様式の分岐過程との関係を論じた論文を投稿・査読後の修正中であるので、それを完成させる。さらに、火山ガラスを用いたナノライトの晶出実験を行う。晶出実験は、高温XRDを用いた結晶作用のその場解析実験、またはガラス工学の技術を利用したTG-DTA法の両方、またはいずれか上手く行く方を適用する。天然の火山噴出物および実験産物の解析には、電界放出型走査電子顕微鏡に加えて、走査型透過電子顕微鏡の利用を試みる。また、微小な結晶が晶出することにより予想される、石基ガラスのX線吸収係数の変化を用いた、X線ラジオグラフィ―法を試す。(B)表面張力による気泡の形状緩和実験に関して、初期条件(出発物質の組織)の影響を評価する。とくに、気泡サイズより有意に大きい、数百ミクロンサイズの斑晶が、気泡の連結度や、表面張力による自己圧密に与える影響について調べる。実験結果は、これまでの実験で得られた結果と合わせて、論文として投稿する。また、以上について得られた結果を取りまとめ、地球惑星科学連合大会・日本火山学会等にて発表を行う。
購入を予定していた一部の消耗品について、他経費で購入することができたため、使用額が予定額を下回った。
学会発表のための旅費、実験用備品、X線CTデータ解析や論文執筆のためのPC関係物品費に使用の予定。
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すべて 雑誌論文 (16件) (うち査読あり 14件) 学会発表 (19件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)
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