研究課題/領域番号 |
25287147
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三村 耕一 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80262848)
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研究分担者 |
鍵 裕之 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70233666)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 氷衛星 / 有機物 / 超高圧 / 化学進化 |
研究実績の概要 |
氷衛星は地球外生命探査のターゲットとなり得る環境を持つ天体である。この衛星表面の氷層とその下に存在する液体の海における有機物の化学進化を探るため、低温超高圧実験を試みた。今回出発物質として使用したアラニンは、炭素質隕石中に多量に存在することが報告されている。さらに、炭素を含む最も単純なアルキル基の-CH3を含むため、アラニンを出発物質とした実験は、“アミノ酸”の代表的な実験として考えることが可能である。 実験条件としては、室温(298K)の温度条件、5 GPa、7 GPa、9 GPa、11 GPaの圧力条件を使用した。加圧装置としては、GCMS分析が可能となる量の生成物を回収するため、大容量の物質を加圧できるダブルトロイダルアンビルを選択した。 分析の結果、アラニン2量体は5 GPa以上、アラニン3量体は7 GPa以上の加圧実験で生成することが明らかになった。その生成率は11 GPaにおいて2量体、3量体、それぞれ、1 mmol/mol of alanine、0.1 mmol/mol of alanineであった。出発物質に使用したアラニンの分析により、生成率は非常に小さい値であるが、有意な値であることが確認できた。 一般に、圧力に伴い物質中の分子間距離が短くなる。本実験を行った圧力条件でのアラニンの分子間距離を計算すると、2量体の生成が確認された5 GPa では反応が起こるしきい値を超える程度に短くはなっていない。さらに、3量体生成が確認されている11 GPaでさえ、しきい値を超えてはいない。そのため、本実験で確認された圧力誘起反応は分子振動によって、局所的に分子間距離が近くなって、しきい値を超えたため、反応が起こったと考えるのが妥当であろう。この考え方は、先に成果を発表した、ベンゼンを出発物質とした圧力誘起反応の結果と調和的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
((順調な点) アミノ酸のアラニンを出発物質とした室温(298 K)高圧実験の結果、オリゴマー(2量体と3量体)が生成したことをGCMSで確認できた。さらに、圧力の程度によってオリゴマーの生成率が変化し、圧力の上昇とともに生成率が上昇することも確認できた。これら発見は、今までに報告例のない、圧力誘起反応であり、当初の計画である、有機物の圧力誘起反応の基礎的知見の獲得を達成できたと言える。これらの成果は一流国際誌(Chemical Communications)に掲載された。 (遅れている点) オリゴマーの分析はGCMSで行っているため、その分析可能な生成物分子量には限界がある。誘導体化した物質の沸点を考慮すると、これまでの分析方法では3量体までしか定性,定量できない。生成オリゴマーを形成しているアラニンの分子数を検討するためには、より高分子を分析できる手法を取り入れる必要がある。そのため、LCMSMSを分析方法として検討しているが、アラニンオリゴマー(分子数15程度まで)の分析条件の決定に手間取っている。具体的には、カラムの選択、溶媒とその混合比の選択について、試行錯誤中である。
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今後の研究の推進方策 |
『分析法の改良』氷衛星に含まれると考えられる有機物を新たな出発物質として選択し、それらが圧力誘起反応して生成すると予想される物質の分析方法を確立する。現在、低温超高圧環境でのアミノ酸の圧力誘起反応を調べているが、その生成物の分析(定性と定量)に最も時間と工夫を要しているのが現状である。これまで使用していたGCMSでは、アミノ酸を誘導体化する必要があるため、その過程での試料損失が無視できない。さらに、GCMSでは、その機器の性質上、ガス化した試料のみ分析が可能となる。そのためにアミノ酸を誘導化するが、アミノ酸が3分子結合した3量体よりも大きいと分子の場合、誘導体化してもガス化せず分析不可能である。そのため、LCMSMSを使った分析法を検討し、分析を可能にする。 『衝撃反応との比較』静水圧での反応機構を検討するため、衝撃実験を試みる。本研究での静水圧実験は室温環境(298 K)において、超高圧環境を一定時間保持して起こる反応を検討している。それに対して、瞬時に高温と高圧環境を実現できる衝撃実験を行い、圧力誘起反応における温度の重要性と動的な圧力変化の重要性を検討する。 『反応における水の重要性の検討』出発物質としてアミノ酸に水を混合させ、圧力誘起反応機構における水の重要性を検討する。アミノ酸のペプチド化においては、アミノ基とカルボキシル基が相互作用し、脱水反応によってペプチド結合が形成する。そのため、この反応系において水が存在することは、ペプチド結合の生成を妨げるはずである。一方、自然界においては、有機物と水は共存していることが普通であり、実験において有機物以外に水を入れた反応系を考える必要がある。水の存在を考慮した実験により、圧力誘起反応系について水の役割を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
GCMSの消耗品を購入予定であった予算が次年度繰り越しとなった。これは、平成27年度はGCMSの状態が非常に良く,新たな消耗品が必要とならなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
GCMSの消耗品として適切に使用する予定である。
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