研究課題/領域番号 |
25287153
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 泰明 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (10344441)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 高強度レーザー / レーザープラズマ / 高エネルギー密度科学 / 輻射減衰 / 輻射プラズマ |
研究実績の概要 |
1)重元素からなる媒質と高強度レーザーの相互作用を高精度で再現することを目的に、電磁場および電子衝突による金(Au)の電離過程を統合粒子コードEPICに導入するとともに、1021W/cm2 領域の高強度レーザーと金およびアルミニウムなどからなる多層膜のシミュレーションを行い、多層膜の電離ダイナミックスと粒子加速特性の研究を進めた。これにより、最大加速を受ける原子種や価数、加速エネルギーなどを明らかにするとともに、薄膜裏面に形成されたシース電場の空間伝播とそれによる多価イオン生成過程が結合した新しいメカニズムを見出した。また、電離エネルギーなどの原子データ計算のため新たにDeclauxコードの導入を行った。 2)高強度場による電子の輻射減衰の効果をEPICに組み込み、これにより、1022-1023W/cm2領域のレーザーとクラスター媒質(炭素)との相互作用ダイナミックと輻射特性を解析した。特に、輻射強度に対するクラスターのサイズや空間充填率依存性を調べ、クラスター媒質は固体薄膜や一様なプラズマに比べて高いレーザーエネルギー吸収率や輻射へエネルギー変換率を与えることを示した。 3)日本原子力研究開発機構で行っている高強度レーザーとクラスター媒質との相互作用実験を、EPICを用いて再現・予測する研究に着手し、背景ガスがクーロン爆発や粒子加速に及ぼす影響を調べた。特に、クラスターのクーロン爆発によって背景ガスが圧縮・加速されるダイナミックスを明らかにし、実験における加速エネルギー分布を定性的に再現・説明することに成功した。 4)背景磁場を印加されたプラズマとレーザーとの相互作用シミュレーションを行い、磁場がレーザーエネルギーの吸収特性や伝播特性、亜臨界プラズマ中に生成される孤立波(ソリトン)生成に与える影響などを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、1022 W/cm2 領域を上回る超高強度レーザーの実現が視野に入りつつある現況を踏まえ、そのようなレーザーによって生成されるプラズマ(極限輻射プラズマ)の特性を明らかにするとともに、これを利用した応用研究や学術研究を展開することを目的としている。このような高エネルギー密度状態にあるプラズマは、電子の輻射減衰や制動輻射(Bremsstrahlung)などの輻射過程、複雑な原子過程(電離・再結合過程や準位間遷移など)などが重要な役割を果たし、これらの効果を取り入れたシミュレーションコードの構築が不可欠である。この方針に従って、平成26年度は、電子の輻射反作用効果を統合コード(EPIC)に組み込むとともに、連携協力者の協力を得てDeclauxコードを導入した結果。輻射減衰によるガンマ線発生や重元素の複雑な電離過程の解析が可能になった。これらは、今後、輻射輸送過程や電子・陽電子生成過程、原子核変換や中性子生成などを取り込んだ統合化コード実現の基礎を築くものである。 また、コード開発と平行して、金などの重元素を含む固体多層膜やクラスター媒質と高強度レーザーの相互作用シミュレーションを行い、コードに導入した物理モデルや数値手法の適用性や妥当性を検証するとともに、重イオン加速やその応用研究に重要な影響を当たる物理過程を見出すなど、実験研究の進展にも大きく貢献している。 以上から、平成26年度は、予定通りの順調な研究の進展であると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで原子過程や衝突・緩和過程、輻射減衰過程を取り入れた粒子シミュレーションコード(EPIC)の開発を進めてきたが、極限輻射プラズマを再現するためには、さらに高エネルギー電子と原子核との衝突による制動輻射(Bremsstrahlung)や発生したX線・ガンマ線の輻射輸送、輻射と原子核との衝突による電子・陽電子生成、中性子発生、核変換などの過程が重要になる。今後、これらの効果を系統的に取り入れることによりシミュレーションコード(EPIC)の高精度化・統合化を進める。 平成27年度前半は、電離過程や衝突・緩和過程、輻射減衰過程を取り入れた金クラスター媒質と高強度レーザーを行い、極限輻射プラズマの基本的な物理特性の理解を進展させるとともに、輻射輸送やそれに伴う電子・陽電子発生過程をEPICに取り入れる予定である。 一方、重原子を使用したシミュレーションでは電子密度が高くなることからシミュレーションの計算精度を一層向上させる必要がある。EPICでの粒子情報の計算メッシュへの割り当はこれまで線形補間で行ってきたが、これを2次および3次に向上させることによりノイズを低減した長時間の高精度シミュレーションを実現する必要があり、これを実施する予定である。加えて、上記の輻射輸送の導入を念頭に、実験条件に即した適切な境界条件の設定や超並列計算機のための並列処理などの最適化を測る作業を進める予定である。また、外部磁場を印加する機能をEOICに付加し、実験室宇宙物理等への貢献を念頭に、極限輻射プラズマにおける磁場の役割(磁場乱流や磁場形成)についての研究を進展させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
H26年度は、H25年度から開発を進めてきた輻射減衰や金をはじめとした重原子の電離過程などの物理モデルや、それらをシミュレーションに導入した際の数値モデルの妥当性や適用性を検証してきた。これにより当該年度(H26年度)に予定した制動輻射(Bremsstrahlung)や輻射輸送の検討を平成27年度に持ち越した経緯がある。特にX線やガンマ線などの輻射輸送については、当初は輻射強度に対する多次元輻射輸送方程式を、多重拘束マルチモーメント法などを用いて開発する方針であったが、平成26年度に行った検討により、輻射を粒子(光子)として解くのが現実的であるとの判断に至った。 また、将来的なコードの発展性を鑑み、平成26年度は、計算精度の確認作業などの計算科学的な側面をより重視して研究を行った。これらの結果、H26年度に予定していたコード開発の一部をH27年度に持ち越す判断を行った。
|
次年度使用額の使用計画 |
H27年度は、平成26年度に予定していた制動輻射(Bremsstrahlung)や粒子法による輻射輸送のモデル化とともに、それらをシミュレーションコードに繰り込む作業を実施する。また、今後、原子過程や輻射減衰過程を取り入れた高強度レーザーと金などの重原子クラスターからなる媒質の相互作用のシミュレーションを予定しているが、これを実現するためのコード整備を行う。これらのコード開発に予算を配分する予定である。
|