研究課題/領域番号 |
25287154
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉村 智 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40294029)
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研究分担者 |
木内 正人 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 主任研究員 (50356862)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イオンビーム / CVD / シリコンカーバイド / ヘテロエピ成長 |
研究概要 |
次世代の省エネ大電力ワイドギャップ半導体、シリコンカーバイド(SiC)に関しては、これまでに多種多様な研究がさかんに行われている。シリコン基板上でのSiCの薄膜成長(ヘテロエピ成長)に関する研究は、そのうちのひとつである。廉価なシリコン基板上にヘテロエピ成長させることによりSiCを低価格で供給することができるようになれば、将来的なSiCデバイス化に寄与できるものと思われる。 SiCのエピ成長は、通常は、シランを原料ガスに用いたCVDにより行われている。一方、本研究では、これまでナノレベルの立体構造形成や磁気媒体の開発などに使われてきたイオンビーム誘起CVD法の技術を、SiCのヘテロエピ成長に応用しようと考えている。原料ガスとしては、シランよりもやや安全なメチルシランやヘキサメチルジシランなどを利用する。イオンビームの効果により、原料ガスの解離が促進される、または堆積した膜にイオンビームが作用して膜が改質する、などの効果が期待できる。 本研究計画を立案する以前に、研究分担者を中心としたグループは数年来にわたってイオンビーム誘起CVDによるSiCのヘテロエピ成長の予備実験を行ってきた。その結果、アモルファスのSiC膜を得ることができたが、ヘテロエピ成長には成功していなかった。本研究では、この予備実験の不備な点を改善(イオンビームの質の向上や基板温度の制御性の向上など)することにより、イオンビーム誘起CVD技術を高度化し、SiCのヘテロエピ成長を目指している。平成25年度には、実験設備の構築と基本的な要素技術を確認する実験を行った。まだイオンビームの明確な効果は得られていないが、実験条件(ガス流量、イオンビーム強度など)を変化させることにより、イオンビーム誘起CVD技術の有用性を定量的に評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成25年)に達成した事項は以下の通りである。(1) 原料ガスボンベスタンド、マスフロー装置、ガスチューブ、バルブなどを用いて、流量を調節した原料ガスをシリコン基板に吹き付ける装置を作成し、これを研究代表者の管理する低エネルギーイオンビーム装置の成膜実験用真空チャンバーに組み込んだ。次に、実際にガスを吹き付ける試験を行った。 (2) 低エネルギーイオンビーム装置の基板温度制御システムを改修した。次に、性能試験を行い、1570℃までの加熱ができることを確認した。 (3) 低エネルギーイオンビーム装置によりアルゴンイオンビームを生成する実験を行った。また、そのイオンビームの質を評価した。その結果、不純物イオンは混じっておらず、エネルギースペクトルは幅5eVとほぼ単色であることが確認できた。 (4) イオンビーム誘起CVDの予備実験を行った。メチルシランを原料ガスに選び、アルゴンをイオンビームとして選択した。ガスの流量は約1sccm、イオンのエネルギーは100eVである。温度650~850℃のシリコン基板の清浄表面にメチルシランを吹き付けつつ、アルゴンイオンビームを照射する実験を行った。その結果、基板温度650℃ではアルゴンイオンビームの照射により、アモルファスのSiCが堆積することが分かった。アルゴンイオンビームがない場合には、SiCの堆積は観測されなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、研究代表者のイオンビーム技術と研究分担者の材料表面分析技術を活用し、イオンビーム誘起CVD技術を用いたSiC薄膜の成膜実験を行う。SiとCを含有する各種の原料ガスからイオンビーム誘起反応によりSiCの元になるイオン(メチルシリセニウムイオンなど)を作成し、これを堆積することによりシリコン基板上へのSiCのヘテロエピ成長を試みる。基板は装置既設のヒーターにより数百度~千度に保つことができる。これらにより、シリコン基板上に結晶性のSiCが成膜されると期待できる。 今後行う実験の手順の概略は次の通りである。まず、原料ガスを基板に吹き付けつつアルゴンイオンビームを照射して、できたフラグメントをシリコン基板に堆積させる。次に、膜の表面分析を行う。最後に、照射イオンビームのエネルギーや基板温度を変化させ、結晶成長モードなどを明らかにし、その制御性を調べる。また、原料ガスを変化させた場合に、SiとCの組成比にどのような変化が現れるかなども調査する。 昨年度は、前半に実験装置の立ち上げを行い、後半には実験が比較的容易な気体の原料ガス(メチルシランなど)を用いた実験を行った。今後は、産業応用性を考慮して、比較的安価かつ化学的に安全性の高い原料ガスを用いた実験を推進してゆく予定である。今年度の研究計画は以下の通りである。 (1) 液体材料気化供給装置を研究分担者の所属する産総研から移管し、これを実験装置に組み入れて試験する。 (2) 液体材料装置を用いて、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルシロキサンなどを原料ガスとした場合に、イオンビーム誘起CVD実験を行う。また、これらの実験で生成した膜の表面分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の当初の予定では、初年度に液体材料気化供給装置を購入して、その年のうちに実験装置に組み入れて試験する予定であった。しかしながら、申請額に比して配分金額が少なめであったため、新品の液体材料気化供給装置を購入することは不可能と判明した。そこで、研究分担者の所属する(独)産業技術総合研究所関西センターより液体材料気化供給装置を移管して実験を行うことにした(移管について、研究分担者の同意を取り付けた)。しかしながら、事務手続きや産総研側の実験スケジュールの都合などにより、平成25年中の移管措置はできなかった。液体材料気化供給装置の導入に要する経費分(実験準備に要する経費)が平成26年度に繰り越すことになったが、今年度行う予定の研究計画と併せて実施する。 研究経費の使用計画は、以下の通りである。(1) 液体材料気化供給装置の移管自体には経費はほぼ不要であるが、イオンビーム装置に組み入れる際に架台などの備品や接続に要する真空部品などの消耗品経費が必要である。また、その動作試験にも実験消耗品が発生する。(2) イオンビームの質のさらなる向上のため、ビーム伝送部分の高真空化を計画している。そのための備品、消耗品として経費を使用する。(3) 液体材料気化装置で用いる原料としては、ヘキサメチルジシランやヘキサメチルゲルマンを予定しており、これが原料の購入費として使用する。(4) 実験で作成した膜の表面分析を外部に委託することも検討している。その場合の経費として使用する。
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