研究課題/領域番号 |
25288001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武田 定 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00155011)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プロトン伝導 / 人工プロトンポンプ / ナノチャンネル / キラル結晶 / 発光特性 / 分子吸蔵 |
研究実績の概要 |
(1)● ナノチャンネル中の陽イオンがM=(CH3NH3)の{(M)2[FeIII2(ox)2(μO)(H2O) m]nについては大きな単結晶の育成が困難であるため、粉末ペレットを用いたプロトン伝導度の相対湿度依存性を精査した。さらに相対湿度を制御した条件下で熱重量分析を行い、ナノチャンネル中の水分子の数の変化によるプロトン伝導度の変化率を求めた。水分子が減少することによる水素結合一次元水素結合鎖の断片化と伝導度との関係についてパーコレーションモデルを念頭に置き解析中である。 ● M=(CH3NH3)とNaの化合物について、1H-NMRスペクトルと23Na-NMRスペクトルの温度依存性を測定した結果、両物質ともに200K近傍で水分子のC2軸周りの回転が励起され、伝導度を測定している温度領域では水分子のC2軸が回転する運動が激しく起こっていることがわかった。これらの運動がナノチャンネル中の一次元鎖を介したプロトン伝導を助けている。 (2)● キラルな単結晶Y(BTC)(H2O)nの一次元ナノチャンネル中の水分子DMF分子の配列を用いて、「プロトンポンプ効果」の実証を丹念に試みたが、小さな交流外場電圧による明確なプロトン濃度勾配の発生は確認できなかった。これは、Y(BTC)(H2O)nのプロトン伝導度が小さすぎるためと考えられる。「プロトンポンプ効果」発現のための条件はかなり限られると考えられる。 (3)● EuとTbをYサイトにドープしたEu@Y(BTC)(H2O)n、Tb@Y(BTC)(H2O)n、EuTb@Y(BTC)(H2O)について発光特性を詳細に調べた。特に新たに購入した温度可変のガス置換型固体セルホルダを既設の「蛍光・発光測定システムFP-8300ST」に組み込むことにより、ナノチャンネルに酸素分子を吸蔵させて、発光効率を制御できることを見いだした。EuTb@Y(BTC)(H2O)の粉末試料の粉末試料では、酸素分圧により発光色を変化させることにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは「非対称な一次元ナノチャンネルによるプロトンポンプ」を実現することである。この点については、単結晶{(M)2[FeIII2(ox)2(μO)(H2O) m]n (M=(NH4))で実現できたと確信している。この点だけに注目すれば、当初の計画より早く進んでいる。しかしプロトンポンプを実現するための条件をさらに精査する必要がある。たとえば以下の点である。 (1)水分子やイオンのランダムな熱運動の速さとランダムなプロトン伝導度の関係やプロトン濃度勾配を発生させるための印可交流電場の周波数との関係は複雑であり、これらを調べていくためには少なくともいくつかの「プロトン濃度勾配の発生を達成した」事例が必要である。 (2)Y(BTC)(H2O)nで「プロトンポンプ効果」を起こせなかったのは、この結晶のプロトン伝導度が小さすぎるためと考えられる。これも重要な情報である。27年度にはプロトン伝導度を高める工夫を行う。Y(BTC)(H2O)nの配位子を置き換える検討も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
25年度も報告したように、単結晶{(M)2[FeIII2(ox)2(μO)(H2O) m]}n (M=(NH4))では、プロトン(あるいはプロトンホール)濃度勾配の発生という意味では「プロトンポンプ効果」実現できたと確信している。しかし、更なる一般化とこの現象の展開が重要と考えている。そのため、 (1)「プロトンポンプ効果」を確認している単結晶{(M)2[FeIII2(ox)2(μO)(H2O) m]n (M=(NH4))を用いて、交流伝導度測定の電極として使用している炭素ペーストに金属触媒を混合して、水素ガス雰囲気下で電圧を印可し、ナノチャンネル中にプロトンを積極的に取り込ませる試みを行う。伝導度の水素分圧依存性の測定を試みる。 (2)Y(BTC)(H2O)nではプロトン伝導度が小さすぎる。一方、この結晶は一次元チャンネルの中にCO2分子を吸蔵することができることをすでに見いだしている。ナノチャンネル中に水分子が入っている状態で、CO2雰囲気下に置きCO2を取り込ませることにより少量の炭酸をチャンネル中に発生させる。これによりプロトンをドープできると考えられ、プロトン伝導度を増大させることができると期待される。このキラルな結晶を用いて交流伝導度の測定、さらには「プロトンポンプ効果」の検証を行う。CO2分圧を変えることによりプロトンドープ量をある程度変えられれば、プロトン伝導度というパラメータを変化させた系統的な検証ができると期待される。 (3)Y(BTC)(H2O)nの配位子であるベンゼントリカルボン酸(BTC)を芳香環に三つの窒素原子を含むトリアジントリカルボン酸に置き変えた結晶を作製する。トリアジン骨格の窒素原子はプロトンと親和性があり、ナノチャンネルの壁を構築すると期待されるのでプロトン伝導機構に変調を与えられると期待される。 (4)さらに非対称なナノチャンネルを有する結晶を見いだして、同様な研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度は当初計画よりもさらに学術研究助成基金助成金を有効活用し、最終年度の消耗品の購入、および当初は予期しなかったが追加購入すれば研究の効率的推進に大いに寄与する少額備品の購入に備えるため27年度に残すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
重水素化物の合成が当初計画よりも効率が悪く、重水素化試薬を追加購入する。また、相対湿度調整用の試料チャンバーの真空度をさらに向上させ、水素ガス雰囲気下でも安全なように、当初計画にはなかった新たな測定用試料容器を作製する。
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