研究課題/領域番号 |
25288004
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小堀 康博 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00282038)
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研究分担者 |
三野 広幸 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70300902)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光合成光化学系II / 電荷分離 / 立体構造 / 電子的相互作用 / 電子スピン共鳴法 |
研究実績の概要 |
本研究では、高周波時間分解電子スピン共鳴分光法を駆使し、ホウレン草から抽出したPSIIタンパク質や、シアノバクテリアにおけるPSIIの反応中心において、光照射直後の第一段階目に生成する電荷分離状態の不対電子軌道を特定し、その立体構造と電子的相互作用を実験によって精密に決定する。これまで、光合成反応中心において光入力直後に生成する初期の電荷分離状態を実験で直接的に捉えた例はない。本研究は、この活性種の同定を行うだけでなく、中間体分子の立体的な位置、距離、分子配向および軌道の広がりや重なりによる電子的相互作用を量子論に立脚した手法により正確に求める。 現有しているXバンド(9 GHz帯)時間分解電子スピン共鳴装置を用い、紅色バクテリアおよびPSII試料の測定を様々な温度条件で行った。ホウレン草を精製処理して得られたチラコイド膜試料からは、PSIIRCのキノン分子を二重還元処理した系を用いて測定をした。電荷再結合で生成したアクセサリークロロフィル部位の励起三重項状態が広いスペクトル幅で得られたが、中心付近(339 mT)にはマイクロ波の放出(E)や吸収(A)を示すスペクトル幅の狭い電荷分離状態による信号が得られた。確率Liouville方程式を用い、S-T0 mixingを考慮した一重項前駆体スピン相関ラジカル対のスピン分極生成モデルの解析を行った。この結果、得られたPSII電荷分離状態は、PD1PD2スペシャルペアのPD1部位に正孔が局在し、フェオフィチンに電子が局在した初期電荷分離によるものであることが分かった。さらにこの電荷分離状態の立体配置を特定し、初期電荷分離によって大きな構造変化がないことが分かった。さらに初期電荷状態の準位は三重項再結合が高速に起こる状態と、再結合が抑制された脱トラップ状態が存在することが明らかになり、初期電荷状態の準位の不均一性が実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
紅色バクテリアにおいては、初期電荷分離状態の立体配置や電子的相互作用の解析が完了し、スペシャルペアの初期励起の軌道分布が電荷分離を促進し、さらに電荷再結合を抑制する新しい機構を示した。関連する内容はすでに学術誌(JPCC)に発表している。さらに植物のPSIIにおいても、電荷分離構造、電子的相互作用、軌道準位の不均一性が明らかになってきており、順調に研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
時間分解QバンドEPR測定を本格的に行い、さらに精密な電荷分離構造の決定を進める。得られた電荷分離状態におけるラジカルの分子配向を基に、不対電子軌道の生成に伴う分子配向の変化が温度によってどのように応答するのかを具体的に調べる。タンパク質の構造相転移温度と分子配向変化との関連も注意深く調べる。さらに、得られた電荷分離状態におけるラジカルの分子配向と、沈らが報告したPSIIのX線構造解析データとを比較することにより、電荷分離による電子状態の変化により分子の配向変化がどのように起きているのかも検証する。特にこのような分子配向変化に寄与するアミノ酸残基とその構造変化も特定したい。また、Xバンド測定で得られた電子的相互作用VDAの値により、不対電子軌道の広がりと分子配向変化が電子伝達機能にどのような役割を果たすかなど、構造と電子伝達機能の関連も様々な温度条件において具体的に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の購入を行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
必要な試薬を購入する。
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