研究課題
本研究では、時間分解電子スピン共鳴法を駆使し、ホウレン草から抽出したPSIIタンパク質の光合成反応中心において、光照射直後に生成する電荷分離状態の不対電子軌道を特定し、その立体構造と電子的相互作用を実験によって精密に決定する。これまで、光合成反応中心において光入力直後に生成する初期電荷分離状態の構造を直接的に調べた例はない。本研究は、この活性種の同定を行うだけでなく、中間体分子の立体的な位置、距離、分子配向、軌道分布や軌道の重なりによる電子的相互作用を量子論に立脚した手法により正確に求めることに成功した。今年度は、植物由来のPSII試料についての測定を様々な条件下において行った。ホウレン草を精製処理して得られたチラコイド膜試料のキノン分子を二重還元処理した系においては、電荷再結合によって生成したアクセサリークロロフィル部位の励起三重項状態が広いスペクトル幅で得られたが、中心付近には、マイクロ波の放出や吸収を示すスペクトル幅の狭い電荷分離状態の信号が得られた。さらにプラスチックシート上にPSII膜試料を配向させた試料を作成し、外部磁場方向と膜配向方向とのなす角度を変化させ、時間分解電子スピン共鳴計測を行った所、明瞭な角度依存性が得られた。以上の実験結果について、量子論による一重項-三重項電荷分離状態および、三重項再結合状態のスピン状態分布およびマイクロ波による遷移確率の数値計算によってフィッティングした結果、初期電荷分離状態の立体構造解析に成功した。特筆すべき点として、1)電荷分離状態を構成する分子はフェオフィチンアニオンラジカルとスペシャルペア(PD1 PD2)カチオンラジカルであるが、正孔の電荷はPD1部位に局在化していること、2)上記局在化された電荷間に作用する静電相互作用による安定化によって、三重項電荷再結合過程が大きく抑制されていることが明らかになった。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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