研究課題/領域番号 |
25288006
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥山 弘 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60312253)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 |
研究概要 |
本年度は走査トンネル顕微鏡を温度可変に改良し,それを一酸化窒素の反応ダイナミクスに適用した.Cu(110)表面上で一酸化窒素は直立構造と表面平行構造の2種類をとることが既に分かっている.前者は準安定で後者が安定構造である.50 K 以上の温度では後者が観測され,80 K 付近になると平行構造の一酸化窒素はフリップ運動を始めることがわかった.さらに160 K付近で一酸化窒素は酸素と窒素に分解することもわかった.一酸化窒素は直立から平行構造を経て(前駆体),解離に至る反応経路が明らかとなった.フリップ運動に関して80 K から 90 K の温度範囲でその頻度を測定したところ,アレニウス的に温度依存することが明らかとなり,そのプロットから活性化障壁を170 meV, 頻度因子を10^12 Hz と決定した.一酸化窒素の反応ダイナミクスの単一分子分析は,世界で初めての研究であり,本結果を論文としてまとめ J. Chem. Phys. 誌に投稿した.さらに、水分子と一酸化窒素の反応についても単分子レベルで調べた。低温(12 K)において一酸化窒素は2この水分子と反応し、解離することが明らかとなった。 次に面方位による吸着温度変化の依存性を調べるために、Cu(111),Cu(100)表面において同様の観測を行っている。その結果、一酸化窒素の吸着状態は表面構造に大きく影響を受けることが明らかとなった。まず、Cu(111)表面では予想と反してトライマー構造(3量体)が安定であることがわかった。一酸化窒素は不対電子の存在に起因して2量体を好むことはよく知られているが、3量体が観測されたのは初めてである。一方、Cu(100)表面では2量体でさえ形成しにくく、単量体が多く観察された。これらの違いは表面構造とその対称性の違いに起因すると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
装置のトラブルもあり,当初予定していた水酸基のダイナミクスの観測には至っていない.トラブルはSTM本体のねじの緩みに起因していたと考えられ,修復に半年間を要した.しかし,一酸化窒素の研究において,単一分子を対象としてダイナミクスを安定して測定することに成功し,その温度依存性を捉える事が可能となった.初めて一酸化窒素の表面分解経路を実験的に解明したことから,この成果を論文としてまとめた.従って一定の成果は得られたと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
一酸化窒素の吸着状態が表面構造に強く依存することが明らかとなったので、今後はそれぞれについてダイナミクスや反応の温度依存性を調べる予定である。さらに、水分子との還元反応についても温度を変化させて単分子レベルで捉える予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
真空部品(消耗品)の交換が、来年度に延期になったため。 本助成金を用いて、消耗した真空部品の取り換えを行う。
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