研究課題/領域番号 |
25288006
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥山 弘 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60312253)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表面反応 / 触媒反応 / 走査トンネル顕微鏡 |
研究実績の概要 |
STMを用いてCu(110)表面における水分子、一酸化窒素、硫化水素、アルカリ原子の反応を単一分子レベルで明らかにした。これらは触媒反応における重要な分子であり、金属表面における振る舞いはほとんどわかっていない。本年度は特に水分子に着目して酸化反応、還元反応のメカニズムを解明した。 (1.水分子と一酸化窒素の反応) 低温(6K)において水分子が一酸化窒素と自発的に反応し、窒素ー酸素結合の解離と窒素の還元反応が進行することを発見した(Chem. Sci. 5, 2014)。水分子と一酸化窒素の間に水素結合が作用して引力が働き、基板から一酸化窒素に電子が移動することにより一酸化窒素の分子内結合が弱められることがわかった。このような低温において一酸化窒素の還元反応が進行することは予想外であり、水分子が触媒反応において重要な役割を果たすことを明らかにした。 (2.水分子と硫化水素の相互作用)硫化水素は毒性があり、触媒を用いて還元・無毒化されている。そのメカニズムを探るため、Cu(110)において水分子およびその解離物(水酸基および酸素原子)と硫化水素の反応をSTMを用いて調べた。その結果、硫化水素は酸素や水酸基と反応・分解することを明らかにし、その過程を原子レベルで可視化することに成功した(投稿準備中)。ここでは水素の原子間移動が進行しており、酸素と硫黄の電気陰性度の違いにより起因すると考えられる。水素原子が原子間を移動する過程を捉えた初めての研究である。 (3.水分子とアルカリ原子の相互作用)アルカリ原子は触媒促進剤としても工業的に用いられており、そのメカニズムの解明が重要とされている。本研究ではCu(110)における水分子とアルカリ原子の相互作用をSTMを用いて調べた。その結果、水分子はアルカリ原子に対して2つまで配位すること、水分子が配位することでアルカリ原子の表面移動が促進されることを明らかにした(論文投稿中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は水素がかかわる表面反応および表面ダイナミクスをSTMを用いて様々な温度で調査することである。本年度は低温(6K)において一酸化窒素が水分子により自発的に還元されることを明らかにした。触媒反応がこのような低温でも進行することを示し、そのメカニズム(水素結合の形成と電子移動によるN-O結合の解離)を明らかにすることができた。さらに、水分子と硫化水素の反応においても、低温(6K)において水素移動反応が進行することを示した。 これら水素が関わる表面反応を直接捉えてそのメカニズムを解明することは、今後、触媒を解明し開発する上で重要な知見となる。従って一定の成果は得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の反応系では最低温度である6Kにおいて自発的に反応が進行したため、温度を変えて調査を行わなかったが、今後は反応系を選ぶことで温度による反応の促進に研究を進める。触媒反応とは直接関係ないが、水酸基2量体のフリップ運動は6Kで凍結、78Kで活性化されていることがわかっており、ひとつのモデルとして研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料の購入が翌年度に延期されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本助成金を用いて新しい単結晶試料の購入を行う。
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