研究課題/領域番号 |
25288010
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
浜口 宏夫 早稲田大学, ナノ理工学研究機構, 客員上級研究員(研究院客員教授) (00092297)
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研究分担者 |
石橋 孝章 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 教授 (70232337)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ラマン分光 / 生細胞 / 絶対散乱断面積 / 生体分子 |
研究実績の概要 |
本研究は、生きた細胞内のどこに、いつ、どの分子が、どれだけ存在し、何をしているかを、非破壊かつ非染色、あるがままに調べることができる「絶対定量的ラマン分光イメ-ジング」の手法を確立することを目的とする。蛍光イメージングなど、従来の分子イメージング手法が成し得なかった生細胞内分子濃度の絶対定量化を実現し、生命科学に物理化学的定量性という新しい基軸を導入する。これまで長年にわたって蓄積されて来た生体分子のラマンスペクトル情報、およびその解析ノウハウに基づいて、生細胞内分子の構造、ダイナミクス、環境と生物学的機能の関連を定量的に議論する学術基盤を構築し、「生細胞物理化学」とも呼ぶべき化学の新分野の開拓を目指す。 2013年度には、独立な2台の共焦点顕微ラマン分光装置を用いて、10種の液体・溶液試料(ベンゼン、シクロヘキサン、エタノール、グルセリン、オレイン酸、リノール酸、アルファ-リノレン酸、L-グルタミン0.2M水溶液、タウリン0.4M水溶液、D-グルコース0.4M水溶液)の測定を行い、ベンゼンの文献値を用いて他9種の分子の絶対散乱断面積を求めた。その結果、顕微ラマン分光装置による測定は、従来のマクロ測定に比べて高い精度で散乱断面積を与えることがわかった。一方、分光器の感度特性、偏光特性に対する補正が不十分であることが明らかとなった。 2013年度には、前年度の結果を踏まえ、分光器の感度特性、偏光特性に対する補正法の開発に取り組んだ。回転スペクトルを用いた較正法が極めて有効であることを、窒素分子を用いて検証した。また、ラマン散乱光の平行偏光成分のみを検出することによって、偏光特性の影響を受けない絶対強度測定が可能となることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
技術的な問題で、標準試料測定のための高温気体セルの開発が遅れている。そのため、絶対ラマン散乱断面積の値が、ベンゼンの文献値に対する相対的なものに止まっている。市販されている高温気体セルの最高到達温度は、2~300oC程度のものが多いが、本研究の目的には少なくとも500oC、理想的には1000oCの高温が必要である。このような高温を、顕微鏡の試料部に近接して設置する気体セルで実現することには多大な困難が伴う。現在、セルの設計が終了し、試作品をテストする段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
高温気体セルの試作品をテストし、実用性の高いものとして完成させる。この高温気体セルを用いて重水素ガスの高温回転ラマンスペクトルを測定し、分光器の感度特性、偏光特性の補正を高い精度で行う方法論を確立する。多数の基本的生体分子の測定を集中的に行い、これらの分子の絶対ラマン散乱断面積を決定する。これらの絶対ラマン散乱断面積を用いて、種々の生細胞系で「絶対定量的ラマン分光イメ-ジング」の手法を確立する とくに、炎症刺激によって活性化された白血球中に含まれるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質メディエーター(GFPなどによる蛍光イメージングが適用できないため、それらの細胞内分布は全く未知の状態にある)の絶対定量的ラマン分光イメージングにより、炎症刺激により誘起されるこれら脂質メディエーターの一連の化学反応(アラキドン酸カスケード)を物理化学的に解明する。 絶対定量的ラマン分光イメージング法を様々な生細胞系に適用し、物理化学が生命科学の分野で果たすべき役割を、基礎、応用の両面から広範に探究し、「生細胞物理化学」と呼ぶべき新研究分野の開拓を目指す。
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