研究課題/領域番号 |
25288012
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
信定 克幸 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 准教授 (50290896)
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研究分担者 |
安池 智一 放送大学, 教養学部, 准教授 (10419856)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 近接場光 / 光触媒 / ナノ光応答 / 分子物理 / 計算物理 |
研究概要 |
近接場光励起ダイナミクスを正しく理解するために、電子と電磁場の露な相互作用、すなわち再起的相互作用(光誘起によって生じる電子の運動とそれに伴う電磁場の発生が露に結合している効果)と非一様相互作用(光と物質の相互作用の大きさが、その空間位置に依存して異なる効果)を取り込んだナノ光応答理論の構築を行った。これにより、通常の光励起でしばしば使われる双極子近似を超えた物質の光応答の研究を進めることができるようになった。原理的には近接場光励起ダイナミクスは任意のサイズの物質系で起こり得るが、実際にそのダイナミクスが有意な形で現れるためには、通常は数ナノメートル程度から数十ナノメートル程度の大きさを持った物質系を対象として光励起ダイナミクスの研究を行わなければならない。しかしながらその様なサイズの実在系を対象として光励起ダイナミクスの第一原理計算を実行した研究例は世界的にも事実上皆無である。そもそも実行するための有効な数値計算プログラム自体が存在しない。そこで上記したナノ光応答理論に基づき、数ナノメートル以上の実在物質系を対象として光励起ダイナミクスを計算するための第一原理計算手法の開発を行った。数値計算プログラムのコア部分は、時間依存コーンシャム方程式に基づいて電子ダイナミクスを計算する部分であり、この方程式を実時間・実空間において差分法に基づく簡便な数値アルゴリズムを使って解くための計算手法を開発した。理研神戸に設置されている京コンピュータを使って超並列計算を実行することにも成功した。本年度の後半からは、この数値計算プログラムに基づくプロダクトランも開始しており、現在そのプロダクトランに関する業績を複数の学術論文として執筆している最中である。 また本研究課題の独創性が認められ本年度の1年間で、複数の国際会議を含む12件の国内外招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りナノ光応答理論及びその理論に基づく数値計算手法の開発に成功した。特に、数値計算手法に関しては、十ナノメートルを超える実在系ナノ構造体の電子ダイナミクスを扱うこともできる数値計算効率の優れた超並列大規模計算プログラムの開発に成功した。理研神戸の京コンピュータを使った実機稼働にも成功している。実在系ナノ構造体の光励起電子ダイナミクスに限って言えば、世界最大規模の物質系を扱うことができるプログラムであり、同様のレベルで理論計算を実行できる研究グループは殆ど存在しない。従って、数値計算プログラム開発に関しては当初の計画以上に進んでいると判断する。この数値計算プログラムの開発成功のおかげで、次年度以降のプロダクトランも順調に進めることができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上記した様に超並列大規模計算プログラムの開発が非常に順調に進んでおり、次年度以降はそのプログラムを使い、光エネルギー変換の機構解明に向けたプロダクトランを積極的に進める予定である。 当初の研究計画では、固体表面に担持されているナノ粒子系に特に注目していたが、表面の物質改変が光エネルギー変換に与える影響について解明する研究課題も進めることを検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は研究計画書に記載通りナノ光学理論の構築とその理論に基づく数値計算手法の開発を主として行い、理論及び数値計算手法の開発共に順調に進んだ。特に数値計算手法の開発に関しては、京スパコンや他のスパコンで非常に効率よく稼働する大規模並列計算プログラムの開発が当初の予想以上に進んだ。このため当初購入を予定していた小規模HPCサーバーマシンを使った事前準備的な実機計算の必要性が下がり、研究を先取りして進めるためにも大規模並列化プログラミングを優先した。得られた大規模計算結果を解析、視覚化するソフトウェアの購入を行ったため、当初のHPCサーバーマシン購入との差額が生じた。 上記した様に理論開発及びその理論に基づくプログラム開発が順調に進んでおり、次年度使用額と翌年度分を合わせて、プロダクトランのためのHPCサーバーマシンの購入や研究成果発表の旅費に使用する予定である。
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