研究課題/領域番号 |
25288013
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
柳井 毅 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 准教授 (00462200)
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研究分担者 |
倉重 佑輝 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (30510242)
諸熊 奎治 京都大学, 福井謙一記念研究センター, シニアリサーチフェロー (40111083)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 密度行列繰り込み群 / 化学反応 / 励起状態 / 電子相関 / スピン軌道相互作用 / 超微細相互作用 / 酵素反応 |
研究実績の概要 |
電子励起や異なるスピン状態、酸化状態を経由し、電子状態の状態変化を伴いながら化学反応が進む電子過程の機構解明に向けて、非経験的密度行列繰り込み群(DMRG)法をベースとする手法開発および応用計算を行った。手法開発では、活性空間DMRG波動関数を出発として、動的電子相関を摂動展開により補正する多参照二次摂動理論(CASPT2)計算を拡張する開発を行った。CASPT2法の4体密度行列をキュムラント分解することで3体レベルに近似する高速化法を提案し、その数値的にも実用性のある手法であることを示した。前年度に続き、電子状態計算と実験観測とを関係づけるための物性計算として、フェルミコンタクト(FC)値(超微細相互作用値)の計算法を開発した。金属などを含む系では相対論効果が重要になるが、FC計算に相対論効果を取り込む新規な変更手法を開発し、性能を評価することに成功した。また、新たに磁気的プロパティーとして、g-値の計算アルゴリズムを応答理論と擬縮重摂動理論の二つの枠組みから導き出し、そのソフトウエアを開発した。また、応用面としては、DMRG-CASPT2法を用いて、Δ9-デサチュラーゼ金属酵素によって触媒される脂肪酸の不飽和化の分子機構を高精度量子化学計算から解明した。金属酵素の二核鉄イオンの電子状態および不飽和化反応における化学結合の生成と解離の過程をシミュレーションすることに成功した。高精度計算に基づく検証の結果、デサチュラーゼ酵素の金属活性中心は、不飽和脂肪酸に直接作用するのではなく、タンパク中のプロトン(H+)を活性の助けとして用いて複合的にC-H開裂反応を進めることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多状態のDMRG-CASPT2計算を行うための実装を進めることができた。CASPT2の一次方程式を評価するテンソル積演算コードの高速化は完了した。自動生成による計算機を用いた式導出を用いることで、正確にそして効率よく開発を進めることに成功した。多状態CASPT2のエネルギーは予備計算から正しく見積もられることが確認された。spiropyranのフォトクロミック開環反応やオリゴアセンの励起レベルの計算を発表したが、これは単状態理論に基づくものである。研究の目的では、単状態理論のレベルへと昇華することであるが、その基礎開発は大まかに完了したといってよい。ただし、並列計算の性能を引き上げるために調整を実施しなければならない課題が残されている。また、スピン多重度の異なる状態間のスピン軌道カップリングの計算アルゴリズムおよび計算プログラムの開発も完了している。スピン軌道カップリングは、前年度開発した新規な有効一電子モデルに基づくものである。マンガンクラスタの計算では、円錐交差での状態の乗り移りを見つけ出し、新しい知見を導き出す意義深い成果を示したが、同時に、多状態性を考慮する計算の必要性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
多状態のCASPT2の開発は完了したといってよい。今後はDMRGの参照状態間の遷移密度行列を求める方法の実装を進めるが、その際には、完全CI法のコードでの結果と比較しながら開発を行う。ポテンシャル曲面上での反応経路探索を行う為、或いは、非断熱カップリング項を計算する為に、DMRG-MS-CASPT2法の核座標微分アルゴリズムを開発する。微分はラグランジアン法に基づいて導く。DMRG-MS-CASPT2法を用いて、蛍ルシフェリンの生物発光に関する基底・励起状態を精密に計算する。DMRG法を用いる強みとして、反応経路中で、反応に様々に関与する電子・分子軌道を「活性空間」に総括的に取り込み、大規模に相互作用できる点にある。諸熊の先行研究では、従来法の限界に阻まれ、反応経路を二分割(O-O結合解裂とC-C結合解裂)し、別々の活性空間を用いた研究がされた。本研究では各解裂に関与する結合・半結合軌道およびmoietyのπ軌道の全てを活性空間に含める統一的な経路計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会での滞在が長期間であることがわかったため、その旅費として繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度国際学会の旅費に使用する。
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