研究課題/領域番号 |
25288015
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機合成 / エノラート / フロー化学 / 有機化学 / アルデヒド |
研究概要 |
エノラートは有機化学において最も重要な反応活性種である。ケトン、エステル、アミドのエノラートの発生および反応性は詳細に検討され、有機合成で多用されている活性種である。これに対し、アルデヒドのエノラートは,アルデヒドが優れた求電子剤であるので、生成するや否や、セルフアルドール反応を起こすために、その反応の制御は困難とされてきた。そこで、フロー化学を用いれば、周りにアルデヒドがいない状況を作り出せるので、セルフアルドール反応を抑制できるのではないかと考え、検討を開始した。フロー装置としてはテクノアプリケーションズのコメットX-01-Tを購入し、検討に使用した。モデル化合物として3-phenylpropanalを選択し、LDAを低温で作用させ、次にベンズアルデヒドを作用させた。しかし、LDAが塩基として作用するだけでなく、還元剤として作用する事により3-phenylpropanolが得られた。またセルフアルドール体の生成を抑える事ができなかった。 我々は既に、フローの化学を利用して、爆発性が危惧されるCurtius転位反応を高収率で進行させる事に成功しているが、フロー化学に精通していない。フロー化学を行う際に実験操作上の問題があるかと思い、アルデヒドのエノラートの生成を検討する前に、他の反応にフロー化学を適用して、フロー化学の特徴をつかむ事にした。反応として脱水反応を選んだ。アルデヒドとニトロメタンのHenry反応で得られる化合物にフロー化学を適用し、脱水反応を行う事で、ニトロアルカンの合成を試みたところ、収率70%程度で、生成物が得られる事を見いだした。バッチ反応よりも反応時間が若干遅くなっている。この後、フロー反応とバッチ反応の違いに関する知見を得た後、アルデヒドのエノラート生成をフロー化学に適用することに再度チャレンジする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予期したよりも、アルデヒドのエノラート生成は簡単ではないことがわかった。すなわちLDAのようなβ―位に水素原子を有する塩基を用いた場合は、LDAが塩基としてではなく、還元剤としても作用するために、アルコールが副生成物として得られ、収率が低下することがわかった。また予期していたセルフアルドール反応を抑えることにまだ成功していない。今後β―位に水素原子を有しない塩基を用い、溶媒の濃度等を検討する事により、計画研究を実現させたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で、LDAのようなβ―位に水素原子を有する塩基を用いた場合は、LDAが塩基としてではなく、還元剤としても作用するために、アルコールが副生成物として得られ、収率が低下することがわかった。これを抑えるためには、β―位に水素原子を持たない塩基を使用して、検討を行う。また、セルフアルドール反応の副生もまだ制御できていない。これは反応基質の濃度を薄くして、反応の検討を行うことで対処可能と考えている。またフロー化学を検討している時に、フロー化学とバッチ化学の反応時間等に関する差異に関してノウハウを蓄積する必要があると考えた。そこで、我々がタミフルの合成で、バッチシステムで精通していたHenry反応生成物からの脱水反応をモデル反応として選び、フロー化学とバッチ化学との反応性の差異に関して検討を行うことを計画した。現在少しずつデーターを集積しているところである。これらのデーターを解析して、アルデヒドのエノラート合成に役立てる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
アルデヒドのエノラート生成時に、望みの反応が進行しなかったため、詳細に何が起こっているかを検討した。その結果、LDAの場合に、副反応がアルデヒドの還元である事を明らかにする事ができた。この検討で予想以上に時間を要して、予定より研究の進展が遅れた。しかしこの知見は重要な知見で、対応策を考える事ができた。今後は、この新しい知見をいかして、エノラートの効率的な生成法を明らかにする。以上の理由で、研究の進展が当初の予定よりも遅れているため、研究費の使用金額が予定よりも少なかった。今後エノラートの生成法を確立したら、予定通りの消耗品等が必要になるので、初年度の分と合わせて使用予定である。 まず、脱水反応をモデル反応として、バッチ化学とフロー化学の反応性の違いに関する知見を得る。それと並行的に、エノラートの生成法の条件を塩基、溶媒、濃度、温度、フロー速度等に関して詳細に検討する。また装置に関してもフローで使用するチュウブの材質、チュウブの内径等、検討を行う。エノラート生成法を確立したら、種々のアルデヒドに対する本反応の一般性の検討に移行する予定である。化学薬品代、溶媒代、ガラス器議代、測定装置使用料等,昨年度使用しなかった分を本年度あわせて使用する予定である。
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