研究課題/領域番号 |
25288016
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市川 淳士 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70184611)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | フッ素 / 多環式芳香族炭化水素 / 有機半導体 / フルオロアルケン / フルオロアレン / トリフルオロメチルアルケン / ドミノ反応 / タンデム反応 |
研究実績の概要 |
1) 1,1-ジフルオロアレンのドミノ環化による曲折型 F-PAH 合成:種々のアリール基を有する1,1-ジフルオロアレンにインジウム(III)触媒を作用させ、そのドミノ環化により対応するF-PAHを合成した。また、臭素化剤またはヨウ素化剤存在下でのドミノ環化により、隣接位に臭素置換基またはヨウ素置換基を有するF-PAHも合成できた。さらに、1,1-ジフルオロアレンのドミノ環化をタンデム形式で展開することで、二つのフッ素置換基を有する種々のF-PAHが収率良く得られた。これらF-PAHは、多核NMR観測システムにより単一の位置異性体からなること、また、得られるスペクトルが、予想したものと矛盾ないことを確認した。さらに一部については単結晶X線結晶構造解析も行い、その構造を完全に同定した。一連の1,1-ジフルオロアレンが市販されている出発化合物から簡便に合成できることを考慮すると、上記の手法はF-PAHの優れた合成法と言える。 2) 2-トリフルオロメチル-1-アルケンのドミノ環化による直線型F-PAH合成:二つのアリール基を有する2-トリフルオロメチル-1-アルケンのドミノ型環化が、アルミニウムLewis酸により効率的に進行すること、また、これにより生成したフッ素置換基を有するテトラヒドロテトラセンの脱水素により、対応するF-テトラセンが合成できることを明らかにした。一挙に二つの芳香環を構築するこの手法は、F-アセン(直線型F-PAH)の効率的合成法となる。 なお本研究では、新半導体材料の開発も念頭に置いて、F-PAHのTHFへの溶解度を測定した。その結果、F-PAHは対応するフッ素非置換体に比べて、溶解度が最大25倍になることを示した。高い溶解度は、有機電子デバイスを作成する工程で重要な性質である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,1-ジフルオロアレンと2-トリフルオロメチル-1-アルケンのいずれの基質においても、当初想定した素反応を実現している。また当初の予定通り、多核NMR観測システムを用いて生成物が単一の位置異性体からなることやその構造を明らかとしており、本研究課題の目標である「多環式芳香族化合物に対する系統的合成手法の確立」に向けて着実に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
1,1-ジフルオロアレンと2-トリフルオロメチル-1-アルケンの環化反応に加えて、1,1-ジフルオロアルケンや1,1,2-トリフルオロアルケンの環化反応を検討し、含フッ素多環式芳香族化合物の合成手法を拡充したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年1月に多核NMR観測システムを用いた測定実験を実施する予定で、機器設置を進めていたが、業者の都合により設置のための施設改修工事の遅れが判明し、実験の開始を3ヶ月延期することとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
施設改修工事が完了次第多核NMR観測システムを導入し、予定していた測定実験を開始する。
|