研究実績の概要 |
1) 2-トリフルオロメチル-1-アルケンの逐次環化による置換直線型PAH合成: 分子内に二つのアリール基を有する2-トリフルオロメチル-1-アルケンに対し、トリメチルアルミニウム存在下で塩化ジメチルアルミニウムを作用させた。アルミニウムルイス酸によるフッ化物イオンの引き抜きと、これにより生じたアリル型ジフルオロメチルカチオンの分子内Friedel-Crafts型環化が進行し、1,1-ジフルオロアルケンが収率良く得られた(C-F結合活性化)。この1,1-ジフルオロアルケンに対し、さらにトリフルオロメタンスルホン酸を作用させた。アルケン部位のプロトン化でジフルオロメチルカチオンが生じ、その分子内Friedel-Crafts型環化により、アセン骨格を有するケトンを収率良く得た。このケトンは、置換直線型PAH合成のための良い中間体である。
2) F-PAHの物性測定: 1,1-ジフルオロアルケンおよび1,1-ジフルオロアレンの環化により得たF-PAHに対し、HOMO/LUMOエネルギー準位の測定を行った。まず微分パルスボルタンメトリーにより求めた一連のF-PAHの酸化電位から、これらのHOMOエネルギー準位がピセン([5]フェナセン)に比べて0.1-0.2 eV低下していることを明らかにした。これらの結果は、F-PAHの耐酸化性を示唆するものである。また、LUMOエネルギー準位もピセンに比べて0.1-0.3 eV低下していることが分かった。これらの結果は、F-PAHのエネルギー準位に対してフッ素置換基の電子求引性誘起効果が支配的に作用していることを示しており、今後の有機半導体の分子設計において重要な知見となる。
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