研究課題/領域番号 |
25288017
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
坂本 昌巳 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00178576)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 不斉合成 / 有機結晶化学 / 光化学 / 光学分割 |
研究概要 |
アキラルな前駆体から光学的に純粋な化合物を創製する手法の開発は全ての立体化学者の夢である。我々は,アキラルな基質を溶液中で反応させるだけで,高い光学純度の化合物が得られてくる前例のない現象を見出した。この不斉発現現象は,アキラルな化合物の反応により不斉中心を有するキラルな化合物が生成することと,不斉中心のラセミ化と優先晶出(動的優先晶出)が同時に系内で起こることで達成できることを解明した。 25年度は,アキラルなクロモンカルボン酸エステルに溶液中で光照射すると外的不斉源を用いることなく,結晶性の良い光学活性な二量体が析出してくる現象を見出した。反応条件を精査することにより80%eeでの不斉発現を達成した。また,メソ体のシス-2,3-ジフェニルスクシンイミドを触媒量の塩基存在下で,撹拌し,溶媒を徐々に留去することで結晶化を促し,97%ee以上のdl体のトランス-2,3-ジフェニルスクシンイミドを定量的に得ることに成功した。さらに,2-ベンゾイル安息香酸誘導体にアミンを反応させ,動的結晶化を適応することで,94%ee以上のイソインドリノンを定量的に得ることにも成功した。 アキラルな基質から外的な不斉源を用いずに不斉の発現と増幅を実現する新しい絶対不斉合成法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「無」から「有」を創造する新しい不斉合成の手法を開発した。クロモンの光反応と動的結晶化の組合せでは,光照射の条件検討,溶媒,温度,濃度,溶解度などの条件を整えることで,反応の効率や生成物の光学純度の向上を図った。高圧水銀ランプを用いて,低温で光照射した場合に80%eeの二量体の結晶が定量的に得られた。また,メソ体のシス-2,3-ジフェニルスクシンイミドを触媒量の塩基存在下で,撹拌し,溶媒を徐々に留去することで結晶化を促し,97%ee以上のdl体のトランス-2,3-ジフェニルスクシンイミドを定量的に得ることに成功した。さらに,2-ベンゾイル安息香酸誘導体にアミンを反応させ,動的結晶化を適応することで,94%ee以上のイソインドリノンを定量的に得ることにも成功した。 アキラルな基質から外的な不斉源を用いずに不斉の発現と増幅を実現する前例のない新しい絶対不斉合成法を開発した。 さらに,本手法を適応できる新たな基質の開拓も行い,アロイルアクリル酸誘導体の光異性化と環化反応に動的結晶化を組み合わせることで,光学活性ピロリジノンの不斉合成の予備的検証を行うことができた。また,エノンへのアミンの共役付加と動的結晶化の組合せでは,光学活性アミノ酸の不斉合成に関する知見を得ることができ,次年度の計画に反映させていく。 以上のように,25年度の研究計画を超える成果を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の成果を受けて、光反応による二量体の不斉発現現象とベンゾイル安息香酸誘導体の環化反応による絶対不斉イソインドリノンの合成についての条件検討を行い高い光学純度での不斉反応を達成する。さらに,新たな不斉発現現象を創出するために以下の研究計画を遂行する。 アキラルな基質から光異性化を伴う光学活性ピロリジノンの創製と不斉増幅を研究する。鎖状のアキラルなアロイルアクリルアミドの溶液中の光異性化に続くタンデム環化反応により不斉発現を達成する。アロイルアクリルアミドは対応するカルボン酸から容易に合成できるため,研究期間内に多くの基質を合成し,コングロメレートの探索とピロリジノンの不斉合成を実現する。これまでに,光照射により効率良くE,Z-異性化と環化が進み,ピロリジノンが定量的に得られることを見出している。さらに触媒量の酸や塩基の存在下でアキラルなシス型の開環体を経由してラセミ化することも確認している。年度内に光反応と動的優先結晶化により,不斉発現と増幅を達成する。 さらに,エノンへの可逆的共役付加反応に本手法を適用する。アキラルなインデンやベンゾイル安息香酸誘導体にアミンやアルコール,チオール等を共役付加させ新たな不斉中心を構築する。このときに動的優先晶出が起こることで,アキラルな物質から簡便に高い光学純度の生成物を外的不斉源を用いず得ることが可能となる。ベンゾイル安息香酸誘導体とアミンとの反応では,αアミノ酸をアクリル酸誘導体への共役付加では,βアミノ酸の絶対不斉合成が可能となる。さらにMannich 反応でのアミノ酸の不斉合成にまで拡大する。 前例のない新しい手法による斬新な研究成果を国内外に発信する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費を別予算で賄ったことや,人件費・謝金が予定金額より少なかったことにより,25年度の予定額との差額が生じた。 26年度は,これまでの研究で見出した新しい絶対不斉合成手法を,さらなる多くの新しい反応系へと展開する計画である。したがって,25年度の残額は26年度の反応試薬等の物品の調達に活用する計画である。
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