平成27年度の実績は以下の通りである。 (1)多核金属錯体触媒:本研究の趣旨に従い設計した多核金属錯体触媒を用いることで、メチル基とトリフルオロメチル基を有する4級不斉炭素の構築に世界で初めて成功している。現在は、使用可能な原料の適用範囲を精査し、平成28年度中の論文報告を予定している。 (2)求電子的な有機金属中間体の開発:銀カルベノイドを経由する連続的なアリル化反応について、論文として報告した。さらに本研究から派生して、シクロプロペンの[2+2]付加環化反応が進行し、得られたトリシクロヘキサンから、容易にシクロヘキサジエンに変換可能であることを見出した。トリシクロヘキサンとシクロヘキサジエンは、ともに剛直な構造でありながら、溶解性も、ある程度、確保できていることから、機能性材料としての発展が可能と考えている。特に、芳香族置換基を有する誘導体は、カルド構造を構築することから、光学材料や有機ELへの展開を、平成28年度以降は目指している。 (3)クラスター形成のための鋳型分子合成:鋳型分子の合成にはいくつか成功した。また、新たな分子設計法を考案し、平成28年度から、さらなる研究開発に取り組んでいる。また、実際に金属クラスターを作成し、特に、2つの種類の金属原子を導入したクラスターが、独特の化学選択性を示す触媒として機能することを明らかにした。現在、電子顕微鏡による触媒構造の観察などに取り組んでいる。本研究は、平成28年度中をめどに、論文報告する予定である。 平成27年度は研究拠点の異動があり、成果発表や実験進捗が停滞していたが、研究基盤が整備され、研究が徐々に進み始めている。この状況を推し進め、状況を改善していけるよう努める。
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