研究課題/領域番号 |
25288022
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森田 靖 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70230133)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トリオキソトリアンギュレン(TOT) / 有機中性ラジカル / π積層ラジカルポリマー / 混合原子価塩 / 一次元カラム構造 / メソポーラスシリカ / 酸化還元 |
研究概要 |
平成25年度は、おもに安定有機中性ラジカルであるトリオキソトリアンギュレン(TOT)のπ積層ラジカルポリマーを基盤とする電子輸送材料の開拓とメソポーラスTOTシリカの効率的合成と基礎物性の解明に取り組んだ。 TOTの周辺置換基にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を導入した誘導体を用い、そのアニオン体を原料として電解酸化法を用いることで、中性ラジカルとアニオン体からなる混合原子価塩の合成を行った。TOTの周辺置換基を塩素、臭素、ヨウ素と変換したところ、得られた混合原子価塩の構造は、塩素置換体、臭素置換体ではTOTの中心炭素が重なり、面間距離もほぼ均一なカラム構造であったが、ヨウ素置換体ではTOT3分子が1ユニットとなり、ユニット間にズレがある構造をとっていた。電気伝導度も大きく異なっており、均一な一次元カラム構造が高い電気伝導性発現に重要であることが示唆された。 対カチオンとしてテトラブチルアンモニウムカチオン、トリメチルスルホニウムカチオン、リチウムイオンを用いた場合には、いずれも一次元カラム構造を形成していたが、カチオンのサイズが小さいほど一次元カラム方向のTOTの面間距離は均一に近くなり電気伝導度も増大した。 酸化還元活性なTOTラジカルを壁面に有する「TOTラジカル多孔質シリカ」を設計し、その合成に取り組んだ。TOTラジカル前駆体であるTOTアニオン体を構成単位とし、界面活性剤存在下、重合させることによって、格子面間隔 5.9 nm程度の周期構造を有する多孔質ポリマーを合成した。各種酸化条件を検討し、壁中に含まれるTOT部位を中性ラジカルへと変換したTOTラジカル多孔質シリカの合成に成功した。得られた構造体の窒素ガス吸脱着等温線の測定結果より、酸化前と同程度の比表面積であったことから、酸化後のTOTラジカル多孔質シリカも周期構造を保持していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「TOTのトポロジー異性体およびヘテロ原子組込型TOT誘導体の合成」については、現在のところ合成には成功しておらず今後さらなる検討を予定している。 「TOTのπ積層ラジカルポリマーを基盤とする電子輸送材料の開拓」については、TOTの置換基を変えた誘導体を用いて電解酸化法により中性ラジカルとアニオン体からなる混合原子価塩の合成に成功した。単結晶X線結晶構造解析、電気伝導度測定から、構造と物性の相関についても明らかにしてきた。さらに、原料として用いているTOT アニオン体の対カチオンを変えた合成も行い単結晶を得てX線結晶構造解析、電子スペクトル測定、電気伝導度測定などから構造と物性の相関についても重要な知見を得た。単結晶中の一次元カラム構造の均一性(面間距離、TOT同士の重なり方)などが電気伝導度に大きな影響を与えていることが明らかになり、当初の想定以上の結果が得られている。 「メソポーラスTOTシリカの効率的合成と基礎物性の解明」についても、TOTアニオン体を前駆体として種々条件検討してTOTアニオン体からなる多孔質シリカの合成を達成し、含まれるTOTアニオン体を固体状態で酸化することにより、中性ラジカルを外壁部に持つ目的物「メソポーラスTOTシリカ」の合成に成功した。電子顕微鏡観察から、規則構造の形成と広い範囲において構造体を形成していることを確かめた。また、固体状態での酸化後も規則構造の保持を示す粉末X線回折結果と窒素吸着の結果が得られている。 以上総合的に判断し、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
TOTのトポロジー異性体については、その安定性などについて計算化学の面から検証しており、合成ルートの検討を行い新規な化合物合成を目指す。 TOTのπ積層ラジカルポリマーについては、混合原子価塩の合成における電解酸化の条件によって、得られてくる結晶中のTOTの電子状態が中性ラジカル状態の場合と混合原子価状態の場合とがあり、狙った電子状態の結晶が得られるよう、さらに条件検討と再現実験を行う。また、今後も置換基と対カチオンを変えた様々な誘導体について検討を行うが、特にキラルな置換基や対カチオンを導入した誘導体合成を試みる。得られた結晶についてはX線結晶構造解析による構造決定、電子スペクトルによる電子状態評価、電気伝導度測定をおこない、構造と導電性について関連付けながら研究を推進する。 メソポーラスTOTシリカについては、酸化後の固体の電子顕微鏡観察からも広い範囲で規則構造が観察され、TOTがアニオン体から中性ラジカルへと酸化されたことによって分子間の相互作用による周期構造が構築されたことを示唆する予備的な結果も得られている。H26年度は、このメソポーラスTOTシリカの構造についてさらなる構造、物性評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度には、紫外可視分光光度計の購入を予定していたが、TOTのトポロジー異性体の合成がやや遅れたこともあり、今年度の購入を見合わせた。 H26年度に分光光度計を購入を予定している。 上記装置は合成したπ積層一次元ポリマーの構造と電子状態の関連性についてのさらなる研究や、TOTのトポロジー異性体などの新規化合物の物性測定に重要である。
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