研究実績の概要 |
本研究では、レドックス活性な多核金属錯体を基本単位とし、それを二座配位子で架橋することにより連結した大環状クラスターを合成し、構造決定するとともに、多段階電子移動反応と電気化学的に生起する複数の混合原子価状態について知見を得ることを目標とした。次の成果を得た。 (1)大環状クラスター分子の合成法の開発と構造決定:架橋配位子としてピラジン(pz)、4,4'-ビピリジン(bpy)、ジ(4-ピリジルプロパン(bpp)およびdabcoを用い、三核ルテニウム錯体を環状化したクラスターを合成した。錯形成反応により生成した種々の員環数を持つ大環状クラスターをカラムクロマトグラフィーにより分離、生成した。単結晶X線構造解析を行うことにより、計5種のの構造決定に成功した。 (2)多段階電子移動過程に関する研究:単一の三核ルテニウム錯体がそのコア部分に持つdπ(Ru)-pπ(中心オキソ)軌道が架橋配位子ピラジンのπ*軌道と強くカップルし、大環状クラスターのフレームワーク全体に巨大π共役系が生成する。その結果、各三核コアがピラジンを介した電子的相互作用を持つこととなり、サイクリックボルタンメトリーおよび微分パルスボルタンメトリーにおいて多段階の可逆電子移動過程が観測された。ここで、三核コアとピラジンのフロンティア軌道のエネルギーマッチングが重要であり、電子的相互作用の程度は、酸化還元波の分裂の大きさを指標とすると、pz > bpy > bppの順に低下することが明らかとなった。一方dabco架橋クラスターでは、配位子を介したπ相互作用がないため静電的相互作用が支配的となり、結果として計2段階の多電子移動反応が観測された。分光電気化学測定により、各大環状クラスターに発現する混合原子価状態を帰属し、三核コア間の電子的相互作用の大きさをIVCTバンドのHush解析により評価した。
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