マンガン4価サレン塩素錯体に次亜塩素酸イオンを2当量添加すると、マンガンイオンに2つ次亜塩素酸イオンが配位した錯体が生成すること見いだした。この錯体の構造を解析するため、単結晶の作成を試みた。結晶化溶媒として、ジクロロメタン、アセトニトリル、ヘキサン、ペンタンなどを用いた。アセトニトリル系から単結晶が得られたが、構造解析の結果、次亜塩素酸錯体が分解あるいは元の出発錯体に戻った錯体であることが明らかとなった。研究期間内では、次亜塩素酸錯体の単結晶を得ることができなかった。しかし、これらの研究を通して、サレン錯体の不斉選択性に関する重要な結果を得ることができた。これまでの研究では、アキシャル位の配位子の配位力が弱い場合は、大きな不斉構造をとらないことが明らかにしていたが、サレン配位子側に電子吸引性基を導入してマンガンへの配位力を弱くすると、アキシャル位の配位子の配位力が弱くても大きな不斉構造をとることがわかった。系統的にこの変化を調べた結果、不斉構造変化がアキシャル位とエクアトリアル位の配位力のバランスによって決定されているという結果をえることができた。 次亜塩素酸錯体に構造研究は、ヘム錯体を用いても同様に行った。次亜塩素酸錯体を固体で単離することに成功したが、ヘムについても単結晶を得ることができなかった。単離した次亜塩素酸錯体を用いて、共鳴ラマン分光測定を行った。低温下で測定することにより、ヘム鉄に配位した次亜塩素酸イオンの振動ピークを観測することに成功した。次亜塩素酸イオンの酸素原子の同位体を用いることにより、これらのピークを同定することに成功した。
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