研究実績の概要 |
1)1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイル骨格のリン上に直接アリール基を導入する方法として、これまでの芳香族求核置換反応に加えてアラインを用いるプロセスを確立した。この新たなプロセスによって、これまで導入が困難であった電子豊富アリール基を直接導入が可能となったことから、リン複素環開殻構造の高い電子供与性をさらに高めてより高性能の低電圧駆動有機半導体の創製につながるものと期待される。その一方、直接アリール基を導入したリン複素環開殻構造が、原子価拡張を伴いながら系中で発生させたフッ化水素を効率良く取り込む特性を新たに見出した。特に、電子豊富なアリール基を導入した場合にはフッ化水素の取り込みによって顕著な光吸収特性の変化が見られ、フッ化水素の捕捉過程を視覚的に捉えやすいことがわかった。さらに、取り込まれたフッ化水素は塩基を作用させることによって脱離させることが可能であった。 2)1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイル骨格のリン上にアリールメチル基を導入すると、リン複素環開殻構造が極めて安定になり、また結晶状態でホール移動に有利な分子配列の形成に有利である。このアリール基としてチオフェン骨格を基本としたパイ電子系構造を導入した誘導体を合成し、続いてドロップキャスト法によってFET素子を作成して半導体特性を評価したところ、これまでで最も高い移動度が観測された。この知見は、より性能の高いFET素子を作成するうえで有用と考えられる。その一方、ビチオフェン構造のようにパイ拡張の度合いをある程度大きくしたアリール構造を導入すると、おそらくアリールメチル基のカチオン状態が安定化されるために、分子が不安定となる傾向が見られた。
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