研究実績の概要 |
分子磁性体分野は結晶を用いて、分子構造と磁性を明らかとすることで発展してきた。一方溶液状態に分散している分子がネットワーク構造を有することで得られるゲルは、高分子や超分子化合物を中心に発展しきた分野であり、分子磁性分野との接点はほとんどなかったのが現状である。今回研究代表者は、分子磁性とゲルを結びつけることによって、新た分子磁性ゲルを構築し、「柔らかいゲル」が有する特徴を外部刺激で制御することを目的に研究を行った。 まず3d遷移金属としてNi(II)イオンを用いて、ゲル形成が期待される長鎖アルキル基をベンゼン環に連結させた二座配位子hfpip―X との間で錯形成を行い、Ni(hfpip-X)2を得た。これとD1py2とを混合することによって得られた微結晶を有機溶媒に溶解させることで、ヘキシル基、オクチル基(X=ヘキシル、オクチル)を有するNi(hfpip-X)2において、ゲルの生成を確認した。このゲルを用いて極低温下光照射し三重項カルベンを発生させた結果、Niのスピンと三重項カルベンのスピンが強磁性的に相互作用した強磁性鎖の構築が明らかとなった。このことは、世界で初めてゲル構造の一次元鎖内で電子スピンが整列した分子磁性ゲルの構築に成功したことを意味する。Inorg. Chem. Front, 2015, 2, 917で発表した。 得られたゲルは常磁性体であるため、ゲル一次元鎖磁石構築を新たな目的として、磁気異方性の大きなCo(II)やFe(II)、またはLn(III)を用いた取り組みを行った。4f-Lnは大きな磁気異方性を持つだけでなく、結合サイトが遷移金属と比べて多いため、ゲル化には有利に働く。その結果Lnでは、世界で初めて有機スピンとTb(III), Dy(III)のスピンが一次元鎖内で強磁性的に相互作用した2p-4f一次元鎖を構築したが、ゲル化の挙動には至らなかった。しかしながら溶液状態のTEM画像から一次元鎖の構築は明らかとなり、今後ゲル化のために更に長い長鎖アルキル基の導入が必要となる。
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